私が住む地域には古くから石に願いを込めて池に投げ込むと願いが叶うという伝説が残っています。
しかし、代償として体を怪我したり、病気に掛かると言われており試す者はいませんでした。
勿論、私も怖いので今まで一度も試したことはありません。
しかし、大学受験の時は藁をもすがりたい気持ちだったので試験の後に池へ向かいました。
そして合格祈願をして池に石を投げ込んだのです。
何も起きず合格発表の日を迎えました。
結果は見事に合格です。
自分の実力で勝ち取った合格だと信じて池の話は迷信だったと考えていました。
しかし、その日の夜、私は池に石を投げ込んだ代償を受け取ることになったのです。
友人と遊んでいる最中、自転車のブレーキが急に効かなくなり壁に激突して顔を5針縫いました。
それから怖くなって池には近づかないようにしていました。
あれから10年経ちすっかり池のことは忘れていました。
しかし、また池に石を投げ込まなくてはいけない自体に襲われたのです。
社運をかけて進めていたプロジェクトで大きなミスをしてしまったのです。
提出した設計図に誤りが見つかり顧客に多大な迷惑を掛けてしまいました。
そこで恐怖に駆られながらまたあの池に向かって石を投げ込んだのです。
翌日、社長と顧客の元を訪れると上機嫌でミスを許してくれました。
ほっと胸をなで下ろした瞬間、また代償が訪れる恐怖に襲われました。
会社に戻る途中、信号待ちしていた私たちの車に飲酒運転の車が後ろから突っ込んで来ました。
社長は奇跡的に無傷でしたが私は衝撃で腰の神経をやられて下半身不随となったのです。
車椅子生活を送るようになった私は池に石を投げ込んだことを後悔しました。
同時に、車椅子生活から抜け出すお願いをすれば他の代償を受けても歩けるようになると確信したのです。
そこで、もう一度、池に向かって石を投げ込みました。
車椅子生活から抜け出したいと願いを込めて池に石を投げ込んだのですが何かに跳ね返されるよう石が足元に返ってきます。
何度投げても壁に阻まれるような感じで石が返ってくるのです。
意地になって1時間ほど石を投げ続けましたが池に石が入ることはありませんでした。
そして気付いたのです。
もう私の体で払える代償は命しかないと。
そう考えると急に怖くなり急いで帰宅しました。
あのとき、石が池に投げ込まれていたらきっと私は命を代償にしていたでしょう。
車椅子生活でも今生きていることに幸せを感じるようにしています。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)