怪文庫

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電信柱

あなたは「電信柱さま」を知っていますか?


電信柱さまは住宅地の夜道に出没します。

 

出没するとゆうよりは、普通の電柱に紛れて、そこに突然生えています。


その見た目は遠くからだと電柱にかなり似ているのですが、よくよく近付いてみるとその質感はヌルヌルしていて、まるで人の皮膚のような肌触り、においもまるで加齢臭のような不快な香りがあります。

 

高さもかなりあり、近くからだとどこまで伸びているかわからないくらい大きいです。


そして電信柱さまは近づいてきた人の脳へテレパシーで喋りかけてくるといいます。


どんなことを喋りかけてくるんだろう、実際ほんとにそんなものがあるわけがないのに、このいかにも作り物のような、誰が作ったかわからない噂話が、僕の町でブームになりました。


そのブームになった頃は私は高校生で、まだスマホもなく、ガラケーしかない時代で、このような都市伝説は若者たちの娯楽でした。

 

かなりうさんくさいとゆうか、ありえないこの電信柱さまを探す名目で、私は友人たちと夜中集まり、住宅地をパトロールすることにしました。


いま思うと、高校生がやるような遊びではないし、なんでこんなことをしたのか後悔しているし、なにか狂った力に引き寄せられていたのかもしれません。


その夏の夜はすごく蒸し暑く、私は友人のAとBと3人集まり、自転車で電信柱さま探しをはじめました。


とにかくまず電信柱さまはその背丈がすごいとゆうことで、3人でとにかく住宅地を自転車で走り回りました。

 

 

時刻は深夜、田舎町で、人もまばらな夏の外の空気はぬるく、ひどく不気味で、私はワクワクしていました。


探しているうちになんだか不思議な感覚におちいったのを覚えています、なにか異世界に入り込んだような感覚です。


そして突如として、電信柱さまが現れたのです。


噂どおり、とてつもないでかさの柱でした。


なぜこんなでかいものに、近づくまで気づかなかったのだろう。

 

疑問に思うより前に、Aが周りに居ないことに気づきました。

 

3人とも自転車から降りて、その電信柱さまの巨体を見上げていたのですが、目線を下げたら居なくなっていて、そして、電信柱さまの表面に目線をやると、そこにAは居ました。

 

Aは電信柱さまに取り込まれて全身が溶けて一体化していたのです。


「助けて!!!」


私の脳にその声が爆裂しました。

 

 

Bにそのことを伝えても、Bはなぜかその声が聞こえないどころか、Aが電信柱さまに取り込まれていることにも気づいてないようで、のんきにAの姿を探していました。

 

私は怖くなって、そんなBを忘れて、自転車に急いで乗り、もときた道を一目散に逃げました。


50mほど離れてから、勇気を出して振り返ると、電信柱さまは居なくなっていました。

 

なにか怖い夢をみていたんだ、そう自分に言い聞かせて、私は2人を残して帰宅し、風呂にも入らずベッドで眠ってしまいました。


翌日、AとBの死体がみつかりました。

 

2人は昨日私が自転車でうろついた住宅地の一角の電信柱の近くで心臓麻痺で亡くなっていたようで、なんでこんな事件が起きたのか警察も医者もサジをなげてしまいました。


私は恐ろしくて、深夜3人で出かけていたことも黙って暮らしました。

 

いまだにAの助けを呼ぶ声が頭にこびりついていて、夢ではなかったと感じています。


しかし、あれから電信柱さまに出会うこともなく、その噂もいつしか消えてしまいました。


時がたつにつれ、風化していくこの私の記憶は本物なのだろうか、だれかに脳をいじられて作られた記憶なんじゃないかと感じ始めています。


ふと思い出したことがあります、電信柱さまの噂の最後にこんな話がありました。


「電信柱さまは脳に語りかけ、そして、その人間の記憶を改ざんする」


もしかしたら私の脳にあるこの記憶はすべて、電信柱さまに作られた記憶でしかないのかもしれない。


だとしたら電信柱さまはまだどこかに生えている...私は怖くていまだに、深夜に出歩くことができません。

 

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