怪文庫

怪文庫では、多数の怖い話や不思議な話を掲載致しております。また怪文庫では随時「怖い話」を募集致しております。洒落にならない怖い話や呪いや呪物に関する話など、背筋が凍るような物語をほぼ毎日更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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水浸しの女性

大学生の娘の帰りが遅くなると、駅に車で迎えに行きます。

 

その日も夜11時を過ぎたので駅まで迎えに行き、ロータリーに車を路駐して娘が来るのを待っていました。

 

私のすぐ後ろに路駐している車から女性の大きな声が聞こえたので気になってミラー越しに後ろの車の中を見てみたところ、運転席に若い男性、助手席に若い女性が乗っていました。


違和感を感じたのは、助手席に乗っている女性が全身水浸しで身体がふやけて膨脹していたことです。

 

娘に窓をトントンと叩かれ我に返り、助手席に乗って来たので急いでその場を後にしましたが、後ろの車には男性しか乗っていなかったよと言われ、「またか…」と思いました。

 

「夜11時過ぎのロータリー」「よく晴れている日」「いつもは混んでいるロータリーのタクシーが一台もいない」この3つの条件が重なると、必ず水浸しの女性が現れます。


いつも私の後ろにとまっている車の助手席に乗っているのですが、運転席の人は女性に気づいている様子はありません。

 

車の中に水がいっぱい入っていて、長い黒髪が水の中でフワフワと揺れていることもあります。

 

いつも娘を迎えに行く駅のすぐ隣には公園があり、中には大きな池があります。


数年前、若い男女がその池で入水自殺をしました。


親から結婚を反対され、悩んだ末に2人で固く手を縛り、服に石をたくさん入れて池に入ったのですが、男性だけ見つからなかったそうです。

 

先日晴れた日に反対車線にとまっていた車の助手席に「全身水浸しの男性」が乗っていたのですが、水浸しの女性が探している人なのでは…?


この数年、お互いを探し続けてずっとすれ違っているのでは…?


女性が車の助手席に乗って大きな声で呼んでいる、「○○さん」は一緒に池に入った人の名前なのか…調べる術はありません。


2人をどうにか合わせてあげたい気持ちがあるのですが、水浸しの女性は私の車には絶対に乗って来ません。


以前、霊感が強い友達から私は霊を近づけない力を持っていると言われたので、水浸しの女性は私に近寄れないのかもしれません。

 

池の隅に置いてある花束を眺めていることしかできない日々です。


探し合っている2人が会える日が来ることを願うしかありません。

 

ただ、次に水浸しの男性を見かけたら「○○さんですか?」と声をかけてみようかなと考えています。

 

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