怪文庫

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クマのぬいぐるみ

これは20年以上前の話なのだけど、私は3歳の時クマのぬいぐるみをおばあちゃんからもらった。


なんかリサイクルショップで買ったって言ってた気がする。


その時の私の体格にたいして、そのクマのぬいぐるみはとてもサイズ感があっていたし、もふもふしてて、家にいるときも、お外に遊びにいくときも肌身離さず抱えていたんだ。


寝るときも毎日そのクマのぬいぐるみがないと寝れないくらい、そのクマのぬいぐるみに依存していた。


旅行にいくときも一緒だったし、ちょっと近所に買い物に行くときも一緒だった。

 

だけど5歳くらいのとき、仲のいい友達が有名なメーカーの人形のおもちゃを抱えていて、それがとてもかわいくて、次の誕生日にはその人形を買ってほしいとお母さんに相談した。

 

お母さんもそうしようね、なんて言って、誕生日にはその人形を買ってもらった。

 

それからはクマのぬいぐるみではなく、人形と一緒に遊ぶようになった。


5歳くらいだから年相応な気がする。

 

人形と一緒におままごとしたり、お風呂に入って髪を洗ってあげたり、いままではクマのぬいぐるみをのせていた小さなおもちゃのベビーカーにはその人形が常日頃のっているようになった。


だが、人形はごつごつしているため、一緒に寝るにはあまり心地よくなかったのか、クマのぬいぐるみと一緒に寝る生活は続けていた。

 

この段階で記憶をたどるとクマのぬいぐるみに出会ってから3年目くらい。

 

もらったばかりのころ、クマのぬいぐるみ用におばあちゃんに洋服を作ってもらっていた。


だけど人形が来てから、人形用の洋服はおもちゃ屋さんで購入し、着せ替えて遊んでいた。

 

 

クマのぬいぐるみに出会ってから3年と少したったくらいの夜にクマのぬいぐるみのお洋服を近頃まったく着せ替えていないことに突然気づいた。

 

関心が人形にうつっていたため、寝るときに抱えるくらいしかしてなかったから、クマのぬいぐるみのお洋服をおばあちゃんに作ってもらうことも忘れていた。


出会ったばかりのころはあれだけ毎日お着替えさせていたのに1年くらいまったくお着替えさせていなくて、同じ服をクマのぬいぐるみはずっと着ていた。

 

それに気づいた瞬間、小学校低学年くらいの私の背筋がなぜか凍った。


罪悪感?背徳感?なんだかよくわからないけど、6歳くらいの子供が覚えるような感覚ではなかったと大人になってから気づいた。

 

それからは人形と遊ぶのをやめて、クマのぬいぐるみと遊ぶようになった。以前あそんでいたときみたいに常に一緒にいるようになった。

 

周りの大人から「なんで急に人形と遊ばなくなったの?」とか「クマのぬいぐるみがまた好きになったんだねえ。」とか言われた気がする。


でも6歳くらいのわたしはなんで人形と遊ばなくなったのかと聞かれても本当にわからなかったし、クマのぬいぐるみがまた好きになったんだねえ。と言われてもそんな感じでもないよな、と思ったことを覚えてる。

 

この時点で多分7歳になるころ、小学2年生くらいだったと思う。

 

結局クマのぬいぐるみとまた過ごすようになった。

 

おばあちゃんにまた洋服を作ってもらうように頼んだし、クマのぬいぐるみについているほこりをとったりして、きれいに保とうとしていた。

 

でも以前のような楽しくてそうしているというような感覚ではなくて、しなければならないというような使命感があった感じだった。


だからクマのぬいぐるみと遊ぶこともあまり楽しくなかった。

 

楽しくないのに7歳児がクマのぬいぐるみと遊び続けている状況って今思うとめちゃめちゃ不自然だよね。

 

とりあえずこのクマのぬいぐるみを大切にしなきゃいけない。ってそんなふうに思ってたんだよね。

 

それから1年くらいはまたクマのぬいぐるみと過ごした。


人形は気づいたら親が押し入れの奥の方にしまっていた。


1年たって8歳くらいだったと思う。


クマのぬいぐるみと遊ぶのも、さすがにマンネリ化してきた。

 

だから遊び方のレパートリーを増やそうと思ったんだよね。


今までは、外に一緒に連れていく、ご飯をたべさせるごっこあそび、洋服のお着替え、毛づくろいのようなほこり取り、テレビを観るときは抱えて一緒にみて、お風呂のときは濡れないように透明で頑丈な袋に入れて一緒に入っていたかな。

 

でもお医者さんごっこという新しい遊び方をみつけた。

 

小学生になり、かすり傷だらけであそんでいたから自分はしょっちゅう絆創膏を体中に貼っていた。


その流れから見つけた遊びだと思う。

 

でもぬいぐるみはふわふわしているから絆創膏は貼れなかった。


だから代わりにトイレットペーパーをつかって包帯を巻くかのようにみせかけて遊んでいた。


「今日は腕をお怪我したんだね」なんて言って1日目は腕に巻いた。


多分2日目は足に巻いた。

 

最初のころは巻いてすぐ、取っていたんだけど、お医者さんごっこあそびが案外楽しくはまってしまって、クマのぬいぐるみに沢山トイレットペーパーを巻き付けるようになった。

 

腕に巻きっぱなしにして、足にに巻きっぱなしにして夜一緒に寝たりしていた。


トイレットペーパーって意外と頑丈なんだね、全然ちぎれたりしなかった。

 

ここで少し話かわるんだけどそのころ放課後の友達の中で缶蹴りがやたら流行ってたんだよね。


わたしは8歳か9歳くらいではじめて右手首と左足を捻挫したんだけど。

 

それで病院から帰ってきて、お風呂に入るとき包帯を取ろうとしたらなんか違和感?
というか感じて、はっ!ってなったんだよね。

 

クマのぬいぐるみに包帯(トイレットペーパー)を巻いている箇所と本当に全く同じだったから。

 

急いでクマのぬいぐるみの包帯(トイレットペーパー)をちぎって取ったのをすごい覚えてる。

 

ここでクマのぬいぐるみに対してどこか恐怖を覚えていた自分に気づいたんだ。


それからはお医者さんごっこは一切してない。

 

あと、20年経った今でもそのクマのぬいぐるみは家にあるよ。


だってゴミとして出して、焼却炉にいったら私どうなるんだろうって考えちゃうから。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter