怪文庫

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異世界と現実の間

私はある山深い田舎の村に住む、女子中学生です。

 

小学校と中学校が一緒になっていて、全校生徒が5人しかいないような学校です。

 

私は田舎の閉鎖的なところが嫌いだったので、高校はぜったい都会にいくんだ、そして刺激的なことをいっぱいしよう、と考えていました。

 

ですので、都会の高校に行くために、勉強は自分なりに頑張っていました。

 

周りには「全然勉強してない」と言いながら、しっかり勉強してました。

 

ほかの人は蹴落としても、良い成績をキープしたかったのです。

 

あの頃の自分は、平気で他人を踏み台にするようなところがありました。

 

ある日、勉強に疲れた私は、近所を散歩することにしました。

 

日曜日の昼下がり、季節は夏。セミの音がうるさいくらいの暑い日でした。

 

私は、近くの公園までいってみようと、舗装もされていない土がむき出しになっている道をぶらぶらと歩いていきました。

 

ちょっと木陰で休みたいな、と足を止めた時です。

 

道の真ん中に「それ」がいたのです。

 

「人面鳥」が。

 

私は、本当に驚いた時は声は出ないということを、この時知りました。

 

それは、顔は人間の若い女、首から下は白い羽で覆われている鶏でした。

 

あたりには、誰もいませんでした。

 

意外にも人面鳥の顔は美しく、年齢は私よりすこし上くらいに見えました。

 

私は走って逃げようとしましたが、なぜか動けません。

 

嫌な汗が流れるのを感じました。また同時に体が宙に浮く感覚に襲われました。

 

多分気絶する手前の感覚に近い状態でした。

 

人面鳥は、私をじっと見つめて、ふっ、と冷たく笑いました。

 

私は恐怖よりもなぜか好奇心が勝り、「なんでそんな姿なの」ときいてみました。(実際には体も動かないので、声に出して聞いたわけではありません)

 

人面鳥は「聞きたいなら話してあげよう」と、口を開きました。

 

その口から淡々と語り出されたのは、人面鳥、いや彼女の前世だったのです。

 

なんでも、彼女は江戸時代にある店の看板娘で、その美しさで知られていたそうです。

 

皆があまりに自分の美しさを褒め称えるので、彼女は自分は、こんな場所にいるべき人間ではないと思うようになりました。

 

そして、つい出来心で、自分は本当は、当時の殿様の御落胤なのだと言いふらすようになったそうです。

 

当時の殿様は美形で知られていましたから、信じる人もいたそうですが、もちろん、殿様にそのような事実はありません。

 

その話が殿様の耳に入ったとき、彼女は捕らえられました。

 

 

ただの嘘なら小娘の戯言で済んだのかもしれませんが、殿様を持ち出したのが非常に悪かったのでしょう。

 

彼女は弁明を試みましたが、勘違いも甚だしい、民衆を惑わしたという罪で、処刑されてしまったのです。

 

この前世の罪で、このような姿に変えられているのだ、と彼女は言いました。

 

ここまで聞き終えた時には、なぜか日はすでに傾き始め、夕暮れになりかけていました。

 

「逢魔が時」という言葉が私の脳裏をよぎり、私は早く帰りたいと強く思っていました。

 

正直、人面鳥の罪と、私とはなんの関係もないですしね。

 

面白い出来事があったと、明日学校で話してみよう、なんてことも思いました。その時、人面鳥が言いました。


「私はあなたの前世でもあります。私たちは繋がっている存在なのです。」


えっ、と思って私は人面鳥を見ました。

 

彼女は、言いました。「警告に来た」と。


その時、「自分はここにいるべき人間ではない」という思い上がった気持ちが、人面鳥と共通していることに気づきました。

 

私は言葉に詰まりました。

 

人面鳥が語った内容だって、にわかには、なかなか信じることができないものでしょう。

 

しかし、人面鳥の目には、諦めのような、諭すような、不思議な懺悔の念を帯びた輝きが宿っていました。

 

私はまるで夢か幻のような出来事に巻き込まれてしまったような錯覚に陥りました。

 

けれども、人面鳥が警告として訪れた理由をもっと知りたいという気持ちもあり、彼女の話をもう少し聞くことにしました。

 

彼女は淡々と、前世からの影響から、私が辿る可能性がある未来を教えてくれました。

 

私が都会に出ても、人々に自分のことを持ち出し、虚言によって悪い評判を広めてしまう可能性があるというのです。

 

また、その虚言が遠因となり、未来で私が孤独な道を歩むことになるでしょうと。

 

「人々の評価や自己満足だけに頼らず、真実を追求し、誠実に生きることが重要です」と、人面鳥は言いました。

 

そして、私の前からかき消えました。

 

彼女が去った後、私はしばらくの間、その場に座り込んでいました。

 

ようやく気分が落ち着いてきた時にはもうすっかり夜になっていました。

 

今でも、あれは夢だったのではないかと思うことがあります。

 

翌日、私は学校で、いつもの日常を取り戻しました。

 

しかし、あの不思議な出会いと警告は私の心に深く刻まれ、将来の選択に対して慎重になりました。

 

都会での新たな生活に向けて努力する一方で、誠実さと真実を大切にし、自己満足だけではなく、周囲の人に感謝することを覚えたのです。

 

人面鳥の話は、まるで夢のような幻想的な出来事であったかもしれませんが、その警告が私の心に残り、人間関係や選択に対する新たな視点を与えてくれたことは確かでした。

 

ちなみにこの話をしても、ほとんどの人は信じてくれません。

 

友人などは「写真撮っておけばよかったのに」などと言われました。

 

確かに、写真があれば多くの人は信じたかもしれません。

 

でも、あれはきっと写真には映らないだろう、と私は確信しています。

 

なにか、思念体のようなものだと思います。

 

それから、その公園に行く道を夕方通ると、前世の姿をみることができる。という噂がたちました。

 

ここでは村の名前や公園の所在地は伏せますが、勇気のある人はネットなどで検索し、行ってみるといいでしょう。

 

あなたの前に現れるのが、どんな姿の前世なのかは保証できませんけどね…

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter