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お札の家

2年程前の話ですが、つい最近完結(?)した話があるので書いていこうと思います。

 

長くなりそうで申し訳ないのですが、霊感0の自分が唯一味わった霊体験です。

 

広島県F市某町、地元の人間なら誰もが知る有名なスポットがある。「お札の家」と呼ばれたその場所には、名前通り無数のお札が貼られた家がある。

 

他の噂ばかりのスポットとは違い、ソコを訪れた大学の友人はほぼ全員が不思議な体験をしたという。

 

普段霊感のない人にも見えるらしい。

 

友人の話

 

「家の周りだけ不自然に濃い霧が覆っとったんよ、んで冗談半分で霧に塩投げたらいきなりブワッと霧が裂けたんじゃーw流石にヤバ過ぎる思って逃げたったw」

 

どうやら異様な数の霊が集まってくる場所で、見える人によればお札に阻まれ家に入れない霊がウヨウヨいる、とのコト。

 

上の友人のコメントは印象強くて今でも忘れられないが「霊感が無くても見えた」霊感の無い自分にとってはいつか行きたい魅力的なスポットだった。

 

ふとした日、ファミレスでの食事中にお札の家の話を切り出した。

 

居合わせた仲の良い先輩とその彼女、友人S、はヤケにノリ気「今すぐ行こう」となった。元々地元の先輩と彼女は高校時代に行ったことがあるらしかったが、恐くて車を降りれなかったらしい。他県からきていたSは特にノリ気だった。

 

話を出した後で少し恐くなり後悔したが、遅かった。

 

自分「いや、ホンマにヤバいらしいで?ソコ行って一週間寝込んだヤツとか、帰り事故ったヤツとか普通におるらしいで?」

 

S「今さら何ビッっとんw俺霊感あるし、子供の頃から普通に霊とか見ようたし、その気になりゃ霊にもキャン言わしちゃるけぇねw」

 

自分は内心コイツ馬鹿だなー、と思っていたが本当に危ない霊がいたらすぐに教える、お前を先に逃がす。

 

と言われ普段から怖いもの知らずで気が強いSが同伴するということもあり、お札の家に行くコトを承諾してしまった。

 

時間は大体23時を回ったくらい。心霊スポットに来るには早い時間だったが、お札の家に続く林道は重々しく、暗いってだけで雰囲気があった。

 

車から降り「うっわ、やっぱヤメといた方がエエんと違うーっ!?w」等とハシャイでいたが、先輩カップルが車から降りて来ない。

 

自分「どぉしたんすかー?w」

 

先輩「R(彼女)が気分悪いから無理やって、俺も残るわ」

 

S「えぇー!せっかく来たんすから見るだけ見に行きましょうよー!」

 

先輩「いやいやホンマにえぇわ、お前ら二人で行ってき」

 

S「何ビッてんすかw霊なら俺に任しといてくださいよー!」

 

先輩「うるしゃーわお前!!Rが気分悪い言うとろうが!!調子に乗んな!!」

 

半分喧嘩になりかけたので慌てて止めに入り、渋々二人きりで行くことになった。

 

S「あーもー何なん!?絶対あの二人車の中でエロいコトする気やで」

 

自分「こんな所てそれはないじゃろ…てかお前先輩に態度デカ過ぎ」

 

S「戻ったら思いっきり窓ガラス叩いて脅かしちゃろうでw」

 

自分「…」

 

呆れて言葉も無かったが、急に視界に飛込んできたバリケードに驚き、立ち止まってしまった。

 

S「…こっからが本番っちゅうコトかw」

 

ここから先○○市保有地区により立入り禁止。

 

有刺鉄線まで使われた厳重なバリケードだった。乗り越えることができなかったので、一度林に逸れて、の有刺鉄線が途切れた所で乗り越え、また道に戻り先に進んでいった。

 

今考えるとあのバリケードを越えた瞬間、急に寒くなった気もするし、そんなコトは無かった様な気もする。

 

とにかく空気が変わった、ってコトは自分にもわかった。

 

緊張してしまい、無言で歩く自分。裏腹にSはやたらキョロキョロし「あっソコにおるなー。おぉ!アッチにもおるで〜。」相変わらずのハシャギ様だった。

 

所でお札の家にはダミーがある、というコトを前々から聞いていた。

 

学校の友人「あんなー、林道を進むとまず一件の白い家にぶつかるんじゃ。でもその家は放置されたホンマに普通の民家じゃけ、その家の横に登坂になった獣道があるけぇソコを登らんとお札の家には辿り着けんよ?タマにその普通の民家をお札の家と勘違いしてそのまま帰ってくるヤツとかおるけぇのーw」

 

そしてそのダミーの家は本当にあった。Sにダミーの家の話はしてあったので、二人とも落ち着いて家の横の獣道を目指した。

 

そこでSが

 

「ちょぉ待って、煙草に火ィ着けるけぇ」と立ち止まった。

 

なかなか火が着かない。ボーッと白い家を眺めていた自分は「ココも中々雰囲気あるなぁ」と白い家に近づいた。

 

なぜかその普通の民家も周りをチェーンで仕切られていた。特に何も感じずチェーンをくぐろうとすると

 

「Mっ!!(自分の名前)」

 

Sに呼び止められた。

 

驚いて振り向くとSが煙草をくわえたまま目を見開いてコッチを見ている。

 

何事かワケが分からず動けないでいた自分だが、Sの視線が自分では無く、自分の背後に向けられいる、と気づいた時全身に鳥肌が立った。

 

背筋が凍るように冷たくなったのは生まれて初めてのコトだった。

 

すぐにSに向かって走り出したいがどうにも足が動かない。完全にパニックになっていた。

 

それを察してかは知らないが、突然Sが

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!」

 

と馬鹿デカい雄叫びを上げ、もと来た道へ走りだした。その大声に助けられ、自分も我に帰って全力で駆け出した。

 

林道がやけに長く感じ、絶望的な恐怖感があったが「後ろを振り返ってはいけない、ってまさに今のこういう状況のコトを言うのだろうな」という考えが頭をよぎったのを覚えている。

 

ようやく林道を抜け一般道に飛び出し、凄い勢いで車に乗り込んだ。

 

車に乗り込むとただならぬ様子を察知した先輩が聞いてきた

 

先輩「どうしたんなお前ら!?何があった!!」

 

自分はガタガタ震えが止まらず、まともに答えるコトができず、「とにかく早く車出してください…お願いします…すんません…お願いします…」その場所から離れたい一心でそれしか言えなかった。

 

怯え方が尋常ではなかったので、先輩もからかったりせず車を急発信させた。

 

しばらく無言のドライブが続き、先輩の彼女のすすり泣く声が聞こえるだけだった。

 

不意に背中を強くバン!バン!と叩かれた。驚いて横を見ると、満面の笑みを浮かべたSの顔があった。

 

S「楽しんでもらえた?w」

 

その一言で全てを理解した。

 

正直Sを殴り倒したかったが、怒り以上に安堵感、解放感が溢れてきて一気に体中の力が抜けた。

 

先輩も状況を飲み込んだらしく「S、お前なぁ〜」とミラー越しにSを睨みつけていた。

 

コイツは最悪だ、コイツとだけは二度と心霊スポットには近付かない。あーでも、良かった〜…

 

先輩も同じ気持ちだったのだろう、普段怒りッポイ性格だがSを責めるコトはあまりせず、彼女をなぐさめていた。

 

落ち着きを取り戻した車内は一気に明るくなり、Sがあの時の状況を再現するなどして街に戻る頃には元のテンションでハシャイでいた。

 

ちょうどコンビニに差し掛かり、先輩が「飲み物買うか」と言ったその時だった

 

「ドン」

 

車の屋根から大きな音がして車内が揺れた。

 

先輩はとっさに急ブレーキを踏んでしまい、後続の車からクラクションが鳴り響いた。

 

先輩「えっ何!?今の何なん??」

 

R(先輩の彼女)「とりあえずコンビニ入ろ!後ろの車に迷惑だし!」

 

自分にも何がなんだかさっぱりだった。鳥か何かかな?でも有り得るかそんなコト…考えている内に車はコンビニに入った。

 

急いで車から降り、屋根を確認するが、ヘコんでいる様子はない。携帯のライトで照らしても傷がついたような跡は見当たらなかった。

 

先輩「おかしいなぁ、絶対何か落ちてきたよなぁ!なぁ!」

 

何が起きたのか全く検討がつかず、車の周りや近くの道路をウロウロしていたら、Sが降りてきていないコトに気づいた。

 

車に戻りSに「どうした?」と聞くが返事が無い、うつ向いて少し震えている気がした。

 

変な胸騒ぎがして強めに肩を揺すって「おいどうしたんなお前!!」と叫んだ。

 

Sはしゃがれた声で「ついてきとる」と呟いた。

 

Sの一言に自分は正気を失った。

 

「ついてきとるって何なん!?お前あれ嘘だったんと違うんか!!」

 

Sは青ざめて震えている。先輩の彼女も泣き出してしまった。

 

とりあえず落ち着こうというコトでコンビニで暖かい飲み物を買って与え、少しずつ話してもらった。

 

S「ハナッからヤバかったんじゃ、あの場所は。バリケードあったじゃろ?あれわざわざ林の奥まで逸れたのは有刺鉄線があったからじゃなくてバリケードのすぐ向こうに人が立っとったからなんよ…

 

お前には見えてなかったみたいだから、何も言えんかったけど、あそこで行くのヤメようて言ったら糞カッコ悪いやん。

 

バリケード越えても霊はウジャウジャおったよ。林の中や林道に立ってた。でも俺らには何の興味も無さそうに見えたから何とか平気なフリができたんよ。

 

…ダミーの家に着いた時、そこにはホンマに霊はおらんかった。やっと安心して煙草吸おう思ったんじゃ。で火着けよる間にお前がどっか行くからお前の方見たらおったんじゃ。髪の長い女が。

 

チェーンくぐろうとしとるお前を見下ろしとった。とっさにお前呼んで逃げようとしたけど遅かった。お前が振り向いた時にはその女がお前の背中に抱きついとった。」

 

Sのアパートに戻った自分達は、飲む予定で買っておいた酒も飲まず、直ぐ様寝てしまった。

 

ビクビクして寝るドコじゃないと感じていたが、不思議とすぐに意識が飛んだ気がする。

 

次に意識が戻った時、洗面所の声から

 

「ゲェ〜〜!!ゲェ〜〜!!」

 

と何かを吐く声が聞こえた。

 

急いで洗面所に向かうとSが便器にうずくまって吐いていた。

 

「大丈夫かっ!?S!!しっかりしろ!!Sっ!!」叫びながら夢中で背中をなんどもさすった。

 

でも便器の中を覗いて氷ついた。

 

Sは血を吐いていた。

 

飛びそうになる意識を必死で保ち、狂ったようにSの背中を叩きまくった。

 

「コノ野郎!!ふざけんな!!コノ野郎!!」

 

泣きながらひたすらSの背中を叩き続けた。

 

寝るために薄暗い豆電球にした部屋の電灯が風も無いのにユラユラ揺れていたのを鮮明に覚えている。

 

どのぐらい時間がたったのかわからないが、呼んでおいた救急車が到着し、運ばれるSと共に救急車に乗り込み病院に向かった。

 

すでにSに意識はなかったが、俺の服を掴んではなさなかった。

 

Sが救急病院にて治療を受けた後、医者から説明を受けた。

 

Sは声帯を損傷しているとのコトだった。ただ滅茶苦茶に叫んだ程度ではそうならないという訳で事情を聞かれたが、俺は答えることができなかった。

 

翌日から別の病院に入院し、俺は毎日の様に見舞いに行ったが、声帯治療のためSは話せなかった。

 

紙に文字を書いての会話となったが、むなしく、そして悲しくてあまり多くの会話はできなかった。

 

もちろんあの夜の事など聞けない。

 

しばらくそんな感じで過ぎて行き、もうじき退院というある日、見舞いに行くとSがいなかった。

 

聞けば「昨日退院した」ということらしかった。

 

「連絡ぐらいよこせよ。」と思いつつ、Sに退院おめでとうのメールを送った。

 

ポストマスターからメールが返ってきた。Sはメアドを変えていた。嫌な予感がしてあわてて電話するが、番号自体変えていた。

 

とにかく大学にくるのを待つしかないと思ったが、Sは来ない。

 

嫌な予感は的中した。

 

S大学を辞めていた。総務課で実家の番号を調べて欲しいと頼んだが、辞めた生徒の電話番号を勝手に教えることは出来ないとのコト。

 

完全に連絡をとる手段が途絶えた。

 

その後約2年間、俺が大学在学中はSに会うことはなかった。

 

 

〜後日談〜

 

 

最近、Sと再会したキッカケは同じサークル内の後輩が、Sと同じ地元だとわかってからだった。

 

後輩に無理言って、先々週の土日を使ってSの地元に案内してもらった。

 

中学まで良くSと遊んだというその後輩はSの自宅も知っており、少々強引かと思ったが前々からSが気になってしょうがない俺はSの自宅を訪れた。

 

朗らかな感じで背の低い、活発そうなSの母親が出てきた。事情を説明すると驚いていたが、すぐにSを呼んでくれた。

 

玄関にSが出てきた。髪を坊主にしていた。

 

突然の訪問に目を丸くしていたが、「よぉ…」と苦笑いしながら罰の悪そうな声を出した。

 

本当に久しぶりにSの元気そうな姿を見て俺は泣きそうになった。

 

部屋に上げてもらい、色々と話しを聞くコトにした。妙に緊張してよそよそしい会話だったが、Sは次の様に答えてくれた。

 

(以下、長い話しなのでポイント毎に要約して書いていきます。)

 

あの夜何が起こったか。

 

爆睡する自分の横でひたすら眠れなかったS。眠れなかったというかSは敢えて眠らなかった。朝まで絶対に気を緩めまいと固く心に誓ったらしい。

 

そして深夜、寒くなったSは布団を取りに押し入れを開けた。

 

そこにあの女がいた。

 

Sがリアクションを取る間も無く、その女はSに重なった。

 

そこからの意識は飛び飛びだったという。気づくと便器に向けて「ウゲェー!ゲェー!」吐いていて、「本能的に異物を吐き出そうとしたんかな?」と語っていた。

 

しかし出てくるのは血ばかり、「自分はここで死ぬかもしれない」と覚悟したらしい。

 

もう「吐こう」という意識とは関係なく、口から血が溢れてくる。俺が背中叩いたり名前を呼び続けたのも覚えていないそうだ。

 

何故突然退院したのか、連絡手段を途絶えさせたのか。

 

病院の医師曰く「畑違い」とのコトらしかった。

 

声帯はほぼ完全に治っており、尚も声が出ないのはSの意識問題、精神面での傷。つまり、ウチの管轄外ですよ。と宣告されたそうだ。

 

Sの母親はクリニックに通いつつの学業復帰を薦めたが、Sは退院後、大学を辞めて実家に帰ると訴えた。何と言われようが絶対に折れなかったらしい。

 

その後両親に迎えに来てもらい、Sは実家に帰った。

 

「半分狂いかけとったなw、でもどうしても病院やクリニックで何とかなるとは思われんかった」

 

女は毎日夢に出てきた、以前には無かった夢遊病の癖もついていたそうだ。

 

状況が酷くなる前に神社か寺で祓ってもらい、田舎で静かに暮らそうと考えていたらしい。

 

連絡手段を途絶えさせたのには、ただ「心配させたくなかった」とだけ答えたが、俺はSが全てを忘れたかったんじゃないか、と考えている。

 

あの女はどうなったのか。

 

実家に戻る前に両親に全てを打ち明けていたSは両親同伴の元、地元にある大きな寺を訪れた。

 

驚くことに、寺に着くなりSは住職により本堂に案内され、「ここで全てを打ち明けなさい。」と言われた。声の出せないSは紙とペンで全てを打ち明けようとした。しかし突然、途中でペンが止まった。

 

あれだけ意識がハッキリしている時に、しかも呼吸が出来ない程の金縛りにあったのは初めてだったという。

 

突然Sが苦しみ出したので住職達は大急ぎでお祓いを始めたらしい。

 

しかし目の前が真っ暗になり、数人のバタバタという足音、お経や金属音を暫く聞いてプツリと意識を失ったらしい。

 

次に目を覚ますと寺の客間の布団の上で、住職と両親が側にいた。住職が話してくれた。

 

特に強い怨念を残した霊で、憑き方が普通ではなかった。内側から侵食しており、Sはもう少し遅ければ本当に危なかったとのコト。

 

住職は「中々出て行かないのでこんなモノを使いました」と木彫の仏さまを見せてきた。身代わりの効果があるらしく、簡素な作りの人形だったがSにはとても神々しく見えたという。

 

あの女はどうなったか その2。

 

Sが声を失ったのにも意味があるらしかった。声には力があるらしく、霊が媒体を支配する際にその力を奪う、と言うのは良くあるコトらしい。言霊(コトダマ)と霊は密接に関係しているそうだ。

 

お祓いが済んでもまだ声を出せない様子のSを見て両親は心配したが、住職曰く「もう大丈夫。栄養をとって数日落ち着けば声も出るでしょう」とのコト。

 

実際一週間程で徐々に声は回復し、以前通りの生活を過ごせるようになったという。

 

その後しばらくしてSは派遣業者に勤め、無事に今まで過ごしてきたとのコト。

 

以上長々と書いてきましたが、コレが自分の体験霊体験の全てです。

 

Sはお祓いの後、あの女はおろか一度も霊を見ることがなく、霊感を無くしてしまった、と語っていました。

 

身代わりの仏さまにそういう力ごと封印されたのでしょうか?

 

とにかく本当に危ない心霊スポットには遊び半分じゃなくても近づくもんじゃないってコトですね。

 

我々にそういう異界のモノをどうにかできる力なんてありゃしないんだと思い知らされましたよ。

 

長々と失礼しましたー。

 

著者/著作:旧2ch掲示板(出典)