怪文庫

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奥さんのような何か

一度タイムリープして、元の世界に戻ってきたらしい同僚の話です。「らしい」というのは、その知人を第三者視点で見ていた私からすると、認識が違うからです。

 

彼がタイムリープに成功したという方法は、鏡を見ながら理想とする世界を思い浮かべてそのまま寝るという感じだそうです。※危ないと思うのでぼかして書いています。

 

彼は奥さんに先立たれたのですが、奥さんが亡くなる前に戻ってそれを阻止したい一心で、何度もタイムリープに挑戦していたそうです。

 

そしてある日成功し、奥さんのいる世界で幸せに暮らし始めたといいます。

 

その頃の彼は、周りからすると普通に現実に存在していました。ただ、奥さんが生きていることを前提とした言動をするようになりました。既に亡くなっているのに、です。

 

悲しみから狂ってしまったのだと思いつつ、仕事は普通にこなしていたので、一時的なものだろうと皆そっと見守る対応をしていました。

 

でも、そのうち奥さんが作ったという弁当を持ってきたりして、妙に現実味を帯びてきました。事情を知らない人は、本当に奥さんがいると勘違いするほどでした。

 

結果を先に言うと、彼は精神を病んでいると診断されました。

 

妄想を現実と思い込んでいたそうです。病名は伏せますが、妄想を現実と思い込むのは、その病気の症状としてポピュラーなのだとか。

 

治療をした彼は、復帰後は正気に戻っていました。彼曰く「元の世界に戻ってきた」ということです。

 

ただ、いくつか不思議なことがあるんです。

 

一例として、事情を知らない新入りのアルバイトが、彼の奥さんと名乗る人物から紙切れを預かっていたことがありました。彼はそれを自分の物だと普通に受け取ったそうです。

 

その話を知った時点でアルバイトに彼の奥さんはどんな人だったか聞いても、顔や姿を思い出せないようで、アルバイト自身も気味悪がっていました。

 

これは、彼の妄想というだけでは説明がつかない気がします。

 

この出来事があってからというもの、タイムリープに成功した話を見かけるとなんとも言えない気分になります。

 

現実的な観点からいけば、自分で自分を妄想の世界に閉じ込めて、その中で生きているのかもしれないという怖さを感じるんです。

 

オカルト的な観点からいけば、本人も気づかないうちに、人ならざる者を招いたり生み出したりしているのではと恐ろしく思います。

 

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