怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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こんこんさん

今回、オカルト好きな先輩から伺ったおいなりさんにお願いして異世界へ行く方法を紹介させていただきます。


先輩はその行き方を友人から教わったそうで実際に行ってみた所、非常に不思議な体験をしたと話してくれましたのでその体験談もあわせて記載します。

 

そのおいなりさんが祀られているのは都内の外れにある神社です。


実際に行ってみたところ、神社といってもさほど大きくはないのでお参りに訪れる人も少なく、周りは住宅街に囲まれているのもあってか日中でも静けさが漂っているような場所でした。

 

手順としてはそこへ日付が変わる時間帯にお参りへ行き、本殿の隣にある小さな祠にいなり寿司をお供えするというものなのですが、これにはいくつか守らなければいけないルールが存在します。

 

まず、お参りする姿を他の人に見られてはいけません。


見られてしまうと失敗するそうです。

 

次に、いなり寿司は二つ用意をし、それらは必ず半紙に包んでお供えをします。


お供えをした後は目を瞑り「こんこんさん、おいでませ」と言って手を合わせます。


「こんこんさん」とはそこに祀られているおいなりさんの名前だそうです。

 

手を合わせた後は目を開けて、お供えした筈のいなり寿司が消えていたらこんこんさんが来た合図となります。


そうしたら「私をここではないどこかへ連れていってください」と伝えればそれが叶えられるというもの。

 

先輩もその手順に従い行ったのですが、手を合わせても当然のことながらいなり寿司はそこに残ったままでした。

 

常識的に考えて数秒前に目の前に置いたものがそんな一瞬で消えることなんてまずありえません。


先輩は少しがっかりした気持ちと共に、その日は余ったいなり寿司を食べながら自宅へ帰ったそうです。

 

帰宅し、寝る前に先輩は失敗した理由を考えました。

 

そして「もしかすると、自分が気づかなかっただけでお参りする姿を誰かに見られてしまってたのではないのか?」という考えに至り、それならばとリベンジを果たすべく、翌日もその祠へと向かったのです。

 

日中でも静かなそこは日付も変わる頃になると一層それが色濃く、また境内の明かりも極々僅か。


昨日も来た筈なのにその日は少し心細さを感じたそうです。

 

 

くだんの祠に付き、先輩は昨晩と同じように半紙で包んだいなり寿司をお供えし、手を合わせて目を閉じました。

 

「こんこんさん、おいでませ」

 

まぁ、結果は昨日と同じだろう。


そう思いながら目を開ければ、なんと目の前にたった今お供えした筈のいなり寿司が忽然と消えていたのです。

 

こんこんさんが本当にきた。

 

先輩は慌てて「私をここではないどこかへ連れていってください」と早口でお願いしました。

 

「………………」

 

お願いをして、そして先輩は辺りを見回しましたがそこは先ほどと同じ神社の境内で特に変わった点は見受けられませんでした。

 

もしかするといなり寿司は野良猫かなにかが持って行ったのかもしれない。

 

そんなことを思いながら先輩は神社を後にすることとしました。

 

しかし先輩曰く、その時自分は確かに異世界へきてしまっていたのだと話してくれました。

 

はじめにその違和感に気づいたのは神社を出てすぐのこと。


いくら深夜を回った時間帯といっても都内ですので、並び立つ家々の中にはぽつりぽつりと明かりがついているものです。


実際、前夜帰路に着いた際はその時間でもまだ煌々と明かりがついている家が少なからずあったそうです。


しかし、その時はどの家を見ても明かりが一切ともされておらず、まるで全部空き家なのではないかと思う位しんと静まり返っていたのです。

 

そんな中、唯一ともされていたのが道の両側に等間隔で並んだ街灯でした。

 

まだ真っ暗でないだけほっとした先輩はとりあえず、大通りに出ればなんてことないだろうとその歩を少し早めました。

 

その神社から交通量の多い通りまではゆっくり歩いても十分はかからない距離なので先輩はなるべく急ぎ足で大通りを目指していたのですが……

 

「………おかしい」

 

それに気づいたのは神社から出てほどなくの頃。


いつもならとっくに大通りに出ているのに歩いても歩いてもたどり着く気配が一向になく、先輩は半分パニック状態になってしまいました。

 

何故なら、歩いても歩いても見えるのは真っ暗な住宅街と等間隔に並んで明かりを落としている街灯だけ。

 

人っ子一人すれ違わない、むしろ人の気配すら伺えないその異質な空気に「ここは来てはいけない場所だ」っと察したそうです。

 

とはいえ、もとの場所へ帰るにはどうすればよいのか。

 

このまま進むか、神社へ戻るか。

 

先輩は少し考えた末に踵を返し、神社へ戻ることにしました。

 

不思議なことに、結構な時間歩いていた筈が神社へはものの数分で戻ることができました。


先輩は祠の前に立つと手に提げていたレジ袋から余ったいなり寿司を取り出し、お供えをしました。

 

「こんこんさん、おいでませ」

 

ぎゅっと目を瞑り、一心にお祈りをしたそうです。


そしておそるおそる目を開けると忽然といなり寿司が消えていたので、すかさず「私をもとの場所へ帰してください」と言いました。

 

目を開けるとやはりそこは祠の前。

 

しかし振り向くと先ほどの光景とはうってかわって明かりがついている家がぽつり、ぽつり。

 

先輩は「戻ってこれた」とほっと息をついたそうです。

 

この話を聞いて私は安易に異世界へ行く方法を試してはいけないと思いました。


今回先輩はたまたま余ったいなり寿司があったからよかったものの、もしそれがなかったらどうなっていたのだろうと考えるとぞっとします。

 

もし中途半端な気持ちで同じことを考えている人がいたら、この話を心に留めておいていただけると幸いです。

 

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