怪文庫

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狂気憑依

おはようございます。おはようございます。おはようございます。

 

朝いちばんに会社へ行くと、同僚の原田が、いつものように、課長席に向かって三回続けて挨拶をする。

 

それから自分の席へ行き、おはようございますおはようございます。と、二回唱える。

 

すると、原田の顔色がパッと変わり、いつもの普通の原田に代わる。


彼は二重人格だ。と、本人が言っていた。

 

本当かどうかは定かではないが、見たところ、本当なのだろう。

 

原田が二重人格だということは、この部署の全員が知っている。

 

原田がおかしくなった時にはみんながみんな協力してくれているらしい。

 

課長席に向かって三回おはよう、と、唱え、次に自分の席に向かって二回、おはようございます、と挨拶をする。

 

すると、主人格の原田に戻るという。どこでそんなおまじない的なことを拾ってきたのかは知らないが、本人によると、これが、効果抜群らしい。

 

最近、原田と話したときに、言われたことがある。

 

「最近変わったっすよね」

 

どうやら俺は、丁度半年ほど前に、何もかもが変わってしまったらしい。

 

勿論そんな自覚はなく、俺は俺のままだ。生まれたときから。

 

だが、ちょうど半年前ぐらいのめぼしい出来事といえば、警察に捕まった友達に会いに行ったことぐらいかな…。

 

そういえば、そいつも、昔とはすごく変わてしまっていた。

 

まるで別人レベルだ。何かあったのかと聞いても何もないと答えるし、もしや別人か、?と思い、俺との思い出を訪ねると、ちゃんと一致した。

 

その時の違和感といえば、まるで、動画を見た感想、みたいに喋ってたな。

 

まぁ、そんなことは良いとして。


朝のミーティングを終え、原田と一緒に、営業に出る。

 

取引先の事務所に向かって歩いていると、一瞬、はっと何かを思い出したような顔をして、また、何事もなかったかのように元の顔に戻る。

 

すると、それと連動しているかのように、隣の工事現場でガシャン!!!と、大きな音が鳴る。

 

それからすぐに、ビニールシートで遮られた工事現場のほうら、きゃー!!!と、女性の叫び声が聞こえる。

 

そして、すぐに、別の人間の声が飛んでくる。

 

「いそげ!!いそげ!!救急車だ!!石井が鉄骨の下敷きになった!!!!」

 

どうやら、何か事故があったらしい。

 

 

面倒ごとになる前に急いでここを去ろう、と、原田に伝えようと原田のほうを見ると、みるみるうちに顔色が悪くなってくる。

 

これはやばいと、近くの喫茶店に原田を運ぶ。

 

原田の体調が悪くなったことを、取引先の人に伝え、今回の商談は、一旦先送りにしてもらった。

 

幸い、相手は医療従事者だったのもあって、体調が悪くなったということなら、と、許してくれた。

 

今にも死にそうな原田をなだめ、大丈夫大丈夫、というと、こんどは何もないところを凝視して、がたがたと体を震わせる。

 

それから、何やらぶつぶつと言葉をつぶやいている。

 

「あぁ、だめだだめだだめだ。殺される。死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ。あぁぁぁぁ。あぁぁぁぁ!!!!、ぁぃ、は、あぁ。ころsれr、いや、いy、、、死にたくない死にたくない」

 

そんな意味不明なことをつぶやいていた。

 

なんだ。頭がおかしくなっただけか。と、安堵する。

 

頭がおかしくなっただけなら、体調不良ではないな。

 

俺は原田に、「何やってんだ。体調が悪いわけじゃないなら、商談、いくぞ」と告げ、街中を歩きだす。

 

すると、今度は、狂ったように、自分の頭を強打し始める。

 

あぁ、もう、これじゃあ商談もまともにできないじゃないか…。

 

「原田、おまじない。できるな??」

 

すると、原田が、救われたような顔をして、俺に向かって三回、自分に向かって二回、おはようございます。と、挨拶をする。

 

するといつもの原田に戻る。さっきまでのことは何もなかったかのように俺の前を歩きだす。

 

原田は、俺にパワハラを受けている。だから、狂ってしまった。

 

だが、俺が催眠かけたおかげで、おまじないを唱えると、パワハラだって、うれしいと思えるようになるし、なんだって面白いと思えて正気に戻れる。

 

どうやら本人は、そのことを二重人格か何かだと勘違いしているようだ。

 

無事商談を終え、会社に返ると、そこは政府の犬の巣窟になっていた。

 

俺はもちろん何のことだか分からず、聞くと、なんと俺を逮捕しに来たらしい。

 

あぁ、ばれないと思ってたんだけどな。

 

まぁ、いいや。こんな体、捨てれば。どうやら俺のことは、俺の熱烈なストーカーによる通報のようで、自分ではなく、原田がパワハラを受けていることに嫉妬し、警察に証拠を突き出したという。


そんなことでか…。俺なんて嫉妬に狂ったことは何度あるだろう。

 

きっと数えきれないほどはある。できる人間に嫉妬して、幾度と自分の身を滅ぼしかけたことか…。

 

できる人間に乗り移り、そいつの人生めちゃくちゃにしてから、本人に体を返す。

 

それから自分のやったことの記憶がよみがえり、絶望する。

 

こんなにもうれしいことはいないだろう。

 

それからそいつの人生めちゃくちゃにしたついでに、周りの人間の人生もめちゃくちゃにする。


それが俺の生きがいだ。

 

まぁ。もうそろそろ、この体も潮時だと思っていたし、ちょうどいい。さぁ。今度は誰にしよう。

 

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