怪文庫

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エケコ人形

仕事が来ない。脱サラしてフリーランスになって2年。何が悪かったのか分からないが、急に仕事が途絶えた。焦ってやりたくもない内容の低額の仕事を大量にこなす日々。


疲れ切った僕はある公園のベンチでビールをあおっていた。

 

その時、ふと隣のベンチに何か置いてあるのに気付いた。手のひらよりも小さな人形だ。

 

でも、子どもが遊ぶような人形ではない。小太りのおじさんの人形だ。

 

チョビ髭まで生えている。そして、ニット帽なんて被って、そして紙幣や食べ物など、大量の荷物を背負っている。

 

僕はその人形に似たものをどこかで見たことがあった。

 

「エケコ人形」というやつだ。

 

南米発祥の開運人形で、欲しいと思うもののミニチュアを背負わせて手に入るよう願いをかけるものだ。

 

酔いの回っていた僕は、その人形を手に取って、話しかけた。

 

「仕事が欲しいなぁ」口に出してみると、止まることなくどんどん、出てきた。

 

「ってかお金が欲しいわ」「あと車も欲しいよねー」「駅前のタワマンとかさー」

 

話しかけていると、何だか人形の顔つきが頼もしく笑っているように思えてきた。目にも力がある。


うん。何だかうまくいきそうな気がしてきた。僕は、人形を家に連れ帰ってデスクに飾った。


さて、次の日から、僕はお金だの車だの、色々なミニチュア(紙で適当に作ったものだったが)を用意しては、人形に持たせていった。

 

そうすると何だか元気が出てきて、不思議と仕事も回ってくるようになった。

 

 

こいつのおかげかもしれない。と僕はさらに、欲しいけど無理だろうな、と思っていた仕事の案件を書いた紙も持たせてみた。

 

すると、何と、書いた案件を受注することができたのだ!これには驚いた。


僕はますます元気になり、人形を頼りに思いながら精力的に仕事をこなした。

 

いつの間にか、車、家、いろんなものが本当に手に入っていた。

 

手を拡げて人を使うようにもなり、売れっ子と言われるような存在になっていた。

 

本当に、何てありがたい人形だろう。僕は何でも手に入れられる!人形を見ていると僕はどんどん強気になれた。


そんな折、僕に新たな悩みが生じた。

 

こんなにうまくいっているのに、手に入らないものがあるのだ。

 

それは友人の紹介で出会った女性で、僕はもっと会いたいと思うのに、全然誘いにも乗ってこないのだ。

 

そっけない態度の彼女の様子を見て、友人は、「合わなかったみたいだね、ごめんね」ともう終わったかのように言ったが、僕は諦めきれなかった。今の僕は何でも手に入れられるのだ。


僕は、彼女の写真を人形に背負わせて、念じた。


その時、人形の目がうっすら光り、高笑いが響いた気がした。


…。

 

次の日、仕事を終えた僕はいつかの公園のベンチに座っていた。


手は血でべっとりと赤く染まっていた。

 

ただ僕は後悔はしていない。これから僕は彼女を背負う事になる。

 

きっとこれは最後のメッセージになるだろう。

 

僕は未だにわからないが、きっと欲望は人を狂わせることになる。

 

ただもし何かに悩んでいるのであればこの人形を使うといい。この公園に置いておく。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter