私が生まれ育った北海道の田舎町には、「天国へ続く道」と呼ばれる道路が存在します。
その道路は真っ直ぐ続くゆるやかな坂道で、街中から20㎞ほど離れた自然の豊かな場所にあります。
坂の上からは北海道の壮大な景色を眺めることができるため、天気の良い日には観光客がドライブに訪れるほどです。
しかし、地元には「霧の日に天国へ続く道を通ると帰ってくることができない」という言い伝えがあり、天気の悪い日に行ってはいけない場所として知られています。
これは、20年ほど前に霧が立ち込める日に大学生が天国へ続く道にドライブに行き、そのまま行方不明になってしまった事件が関係していると言われています。
実際、山へ向かう道の途中にあるため夜間や天気の悪い日は視界が悪く、事故が起きても不思議ではない場所なのです。
そのためか地元の人もあまり近寄らず、観光名所ではなく心霊スポットと捉える人も多いです。
そんな「天国へ続く道」は知る人ぞ知る道路だったのですが、3年前にSNSで絶景の写真が広まり、一時期は渋滞するほどの観光名所となりました。
そのため晴れた日は道路が混雑するようになってしまい、混雑を避けようと天気の悪い日に訪れるドライバーが増えたのです。
すると、SNSでは美しい景色の話題だけでなく怪奇現象の体験談が取り上げられ始めました。
その体験談のひとつが、
「前に車が走っていなかったのに山道を進むと一台の車が現れ、しばらくすると消えてしまう」
というもので、過去の事件が関係しているのでは?と地元の人の間で噂されたのです。
警察が定期的にパトロールする事態となりましたが、そのような車を見ることは無かったそうです。
一時は地元で騒がれた「天国へ続く道」の話題もしばらくすると落ち着き、忘れた人も増えてきたころにちょっとした事件が起きました。
免許を取得したばかりの地元の若者が友人と「天国へ続く道」にドライブに行ったきり、行方不明になってしまったのです。
初心者ドライバーが運転していたこともあり、道路の脇に落ちてしまったのではと地元の人が集まり捜索しましたが1週間経っても見つかりません。
警察も加わり大人数での捜索活動が行われたのですが、結局見つからずに捜索活動は打ち切られてしまいました。
その若者がドライブに出掛けた日はよく晴れていましたが、夕方から一気に気温が下がり山には霧がかかっていたそうです。
霧がかかる「天国へ続く道」を進むとどこへ辿り着くのか、知っている人は地元にひとりもいません。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)