怪文庫

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M先生

多くの学校には、学校の七不思議があります。

 

七つの怪談をひとりずつ語り終わったときに、ほんとうの怪奇現象がおこる、というものです。


私が通っていた小学校にも、そのような話がありましたが、中学校は、そうではありませんでした。


いちおう、中学に進学してからも、いくつか、学校についての怖い話を聞くことはありました。


しかし、その中学では、七不思議を語ろうとすると、かならず、妨害される、といわれていました。

 

五話から六話くらいに差しかかるころ、社会科担当のM先生が駆け寄ってきて、強制的に、七不思議の集会を中断させてしまうのです。


私が在学していたとき、M先生は、私がいたクラスの担任だったことがありました。

 

先生は、私たちの学校に赴任してから、ずっと、この学校で教えていると聞いたことがあります。

 

いつも昔風のマッシュルーム・カットの髪型で、いかにも昭和世代らしい雰囲気の、男の先生でした。

 

かならずしも学生たちに協調するわけではないけれども、和して同せず、といった態度で、教師としての責任感をもっている性格でした。生徒からの信頼は厚かったと思います。


ただ、先ほど述べた、先生と七不思議についての噂をきいた生徒たちからは、敬遠されることもありました。

 

もちろん、私を含めて、ほとんどの生徒は、その話をただの噂話だと考えていましたが、本気にとらえていた生徒は、なんとなく、M先生をこわがっていました。


あるとき、私は、ほかの生徒から受けた暴力の件で、M先生に呼び出されました。


その日の放課後、私は、廊下の端の窓際で、M先生に会って、そのまま、話になりました。

 

窓際からは、私が実際に暴力を振るわれた場所が、よく見えるためです。

 

話のときには、その相手はそこにはおらず、M先生とふたりで話し合うこととなったため、安心しました。


先生が黙って、私から詳細をきいていたとき、先生は、突然立ち上がり「ちょっと待ってて」と早口で言いました。


そして、そのまま、その廊下の、私たちから見ていちばん遠い、三番目の教室へ入っていってしまいました。


先ほどから、その教室から、複数のか細い声が聞こえていたため、何人かが集まっているらしいことは、気づいていました。

 

先生は、その教室にいるグループに「帰りなさい」などと強く言っているようすでした。

 

 

そこで、私は、先生の噂を思い出しました。

 

教室の中にいる、彼らは、七不思議を話しあっていたのではないだろうか。

 

先生は、彼らが話している怪談を止めるために、彼らを帰らせようとしているのではないだろうか。そのように思いました。


先生は、彼らを急いで追い出すと、また、私のほうに戻ってきました。

 

教室内でひそひそと話していたグループは、七人いました。ちょうど、七不思議の集会をすることができる人数であることに気づきました。


しかし、そのときには、先生には訊きづらいような気がしました。


それで、後日、M先生に、そのことについて尋ねました。

 

卒業してから十年以上がたってしまった、今となっては思い出せない部分もありますが、M先生は、だいたい、つぎのような話を語りました。

 

学生だったころのM先生は、七不思議の集会に参加したことがあったそうです。

 

そのころ、M先生は、怪奇現象などまったく信じていなかったため、興味本位で、聴き役として参加しただけでした。


語り手たちは、おのおの、蝋燭を一本ずつ持参して、百物語のように、一話話すたびに、火を消すこととしました(もちろん、火を使うようなものは、学校に持ち込んではいけないのでしょうけれども、それを承知で実行したのだろうと思います)。


そのほかにも、なんの意味があるのかわかりませんが、黒魔術の紋章などといって、円のマークを描いた紙を机の上に置く生徒もいたそうです。


よけいな机や椅子は、教室の隅にどけて、七人の語り手役の生徒たちと、M先生だけが教室の中央に座ることができるようにしました。


それから、一話、二話、と、順番に話して、最後の七話目を、先生の友人だった、男子生徒が話し終えました。

 

彼は、それから、蝋燭の火を消しました。


そのとき、教室内に、灰色の煙のようなものが発生しました。

 

煙は、だんだん教室内に広がっていきました。M先生と、怪談をしていた七人を囲むほど、煙が広がっていきました。


そして、教室じゅうを埋め尽くして、全員の肩から下あたりを覆い隠してしまいました。


M先生は、そのとき、煙の中から、人の手のようなものが出ていることに気づきました。

 

煙だと思っていたものは、灰色の、半透明の幽霊のような人の形が、たくさん集まってできたものでした。

 

たくさんの灰色の手や、頭が、蠢いています。


それから、灰色の人たちは、皆、一斉に、七人目の語り手のほうに歩いていきました。


そして、彼のところまでいくと、消えてしまいました。


M先生たちは、恐ろしさのあまり、あわてて、帰ってしまいました。


つぎの日から、七番目に話をした生徒は、学校に来なくなってしまいました。

 

仲はよかったそうですが、その後その生徒がどうなったかは現在でもわかっていないようです。


そして、M先生は、その集会があった日から、近くにいる霊や、邪気を強く感じるようになったそうです。

 

M先生は、そのころから、霊の世界について知るために、オカルト関係の本を読むようになりました。

 

その本の中には、実際に霊体験をした人に霊感が備わるようになる、という事例があったそうです。


先生によれば、複数の人々が怪談を話そうとすると、邪気どうしが交流して、より強い邪気となるため、怪奇現象が起こりやすくなるそうです。


先生と私が話をしていたときにも、近くの教室から、邪気を感じたため、覗いてみたところ、案の定、七不思議の集会でした。

 

このようなことがあるたびに、先生は、すぐに怪談をやめさせて、帰宅を促していたのです。

 

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