怪文庫

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戦争が残した恐怖遺産

私の父親は5年前に他界している。

 

死ぬ数年前ぐらいから認知症を発症し、最後は私のことも分からなくなっていた。

 

父親はヘビースモーカーだったせいか、直接の死因は肺がんだった。

 

99歳まで生き、長寿を全うしている。

 

そんな父親の息子である私は、昭和二桁生まれの現在政府公認の高齢者だ。もうすぐ後期高齢者になろうとしている。


私自身は戦争を経験していないが、当然父親は戦争を経験し知っている。

 

だが、生前ほとんど戦争のことは話そうとはしなかった。

 

私の母親は、父親が亡くなるとまるで後を追うかのように、翌年他界している。

 

そんな母親から、父親が戦時中に旧陸軍のとある研究施設で、何かの研究に携わっていたことを聞いて知っていた。


私の父親は俗に言うエリートだった。

 

〇〇帝国大学(現在の〇〇大学)を出たあと、同大学に残り何かの研究をとても熱心に行っていたそうだ。

 

その研究が切っ掛けで、半ば強制敵に軍部に引き抜かれている。

 

その後は戦況が悪化してきたにも関わらず、一切戦地には出向くこはなかった。

 

戦争終了間際まで、場所は定かではないのだが、国内の何処かにあるとされている研究施設で、軍部に命令され研究を継続していたようである。


私は医者を目指すため、かつて〇〇大学に在籍していた。父親は自分の母校にも等しい〇〇大学への私の入学を、当時ことのほか喜んでくれた。

 

その時、自分のことはあまり語らなかった父親が、珍しく自分が行っていた研究のことを話してくれた。


父親は〇〇帝国大学で、微生物、特にウィルスを主体とした研究を行っていた。

 

戦況が怪しくなってきた当時、大本営がその研究に興味を示し、旧陸軍扱いとして、正式に軍部がその研究に介入してきたそうである。

 

しかし、父親の行っていた研究は終戦とともに歴史の闇の中に葬り去られ、人の目に触れることはなかった。


当時大本営は、じり貧の戦局を打開するための秘策として、原子爆弾の開発を進めていた。この逸話は、第二次大戦マニアの間ではよく知られている話だ。

 

理研の◇◇研究室で行われていた原子爆弾の開発は一歩届かず、広島と長﨑への米軍による原爆投下によって終戦となっている。


父親が進めていた研究は、◇◇研究室の原子爆弾開発の伏線として行われていたらしい。私が父親から聞かされている話はここまでだった。

 

だが、この話にはまだ悍ましい続きがあった。

 

私が〇〇大学の学生として、医学を学んでいたころのことである。

 

某研究室の教授が、私の父親のことを知っていた。

 

その教授は当時、父親の研究助手として働いていたのである。

 

 

その教授から、私は父親が行っていた研究の詳細を知ることができた。

 

父親は、ウイルスの遺伝子を研究していて、ウイルス遺伝子を人の遺伝子疾患の治療に利用できないものかと考えていようである。

 

父親が行っていた研究は、当時としては画期的で、現在行われていたとしても全くおかしくないようなものだったらしい。

 

その研究の過程で、ある特殊なウイルスの遺伝子が、生命活動を飛躍的に活性化するという事実を、父親はどうも探り当てていたらしい。

 

この成果は、当時の〇〇帝国大学の学長によって軍部にも報告されていたみたいだと、その教授は言っていた。


大本営は、この成果を不死の軍隊を造るための手段として利用しようとしていたらしい。

 

要するに、死んでもまた生き返るゾンビの軍隊である。

 

その教授が言うには、サルを使った動物実験では、一部不完全なところもあったらしいが、成功していたらしい。

 

その教授も父親の研究について知っていたのは、そこまでだった。

 

しかしその教授から、私の父親と〇〇帝国大学で同期だったという人のことを知らされた。

 

久しく会っていないので近況は不明だが、恐らく存命だというので訪ねてみた。


私が彼を訪ねた時、彼は100歳を超えていて、ベッドの中で臥せっていた。

 

私が父親の研究のことを聞くと、家族に退室するように告げ、二人きりになると、私にあることを話してくれた。

 

彼のことを教えてくれた教授からは、動物実験が行われていたことまでは聞かされていたが、彼からは、なんとその先の話を聞くことができた。

 

軍部は、動物実験に引き続き、人体実験の実施を父親に命じていた。

 

検体は3体用意された。その内の1体は、いま私の前で話をしている自分自身だと言うのである。

 

残りの2体は軍部が用意し、その素性は知らされていない。

 

3体には特殊なウイルスから抽出されたそれぞれ異なったタイプの遺伝子が投与された。投与後、彼には特になんの変化も起こらなかった。

 

しかし、他の2体は、精神が破壊され、人格が変貌し、狂暴になったと言っていた。


人体実験が行われた翌日、研究施設周辺はB29による爆撃を受け、施設は破壊されてしまい、狂暴化したため隔離されていた2体は、何人もの研究員や兵隊を惨殺して逃亡してしまったっている。

 

内1体は捕獲され焼却処分されたが、1体はその後行方知れずとなっていて今も発見されていない。

 

彼は更に話を続けた。


数年ほど前に、下水管の工事で下水道内で工事をしていた作業員が1名、惨殺された状態で発見された事件が発生している。

 

その死体からは、例の遺伝子が検出され、即日遺体は焼却処分されている。

 

この事件は、秘密裏に処理されているが、関係者である彼には知らされたというのである。

 

また、近年、熊などの野生動物による人への被害が多発しているが、関東地方で起こった被害の幾つかでも、同様の遺伝子が検出されている。

 

今も狂暴なゾンビが、私たちの周りで徘徊しているのである。政府はこの事実を知っている。


更に彼はこうも言っていた。「私が死んだら、遺体は直ちに火葬に付すように、家族には強く言い渡している」と。

 

「この話を信じるか信じないかはあなた次第です」とテレビでよく聞くフレーズを言いたいところですが、この話は、あなたが信じようが信じまいが、本当の話なんです。

 

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