怪文庫

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ひとり多い

私が従姉妹から聞いた話です。

 

従姉妹が通っていた中学校のプールには、噂がありました。


必要に応じて、コースロープで区切ることがありますが、20年以上前に第4コースで、溺死した生徒がいるらしい、と。


泳ぎの苦手な生徒ではなかったのに、授業が終わって、プールサイドに上がったらひとり足りなくて、探したら第4コースの底に沈んでいたそうです。


それ以来、第4コースを泳いでいると

 

『足を引っ張られるような感覚がある』

 

『誰もいないはずのプールで水飛沫が上がる』

 

『夜、プールサイドに亡くなった女性との霊が佇んでいる』

 

などの典型的な『学校の怪談』めいた噂が後を断ちません。


第4(死)コースというのも、いかにもな感じです。

 

ある日、水泳の授業でタイムを測るのに、コースロープを張りました。


生徒たちは「嫌だなあ」と言っていましたが、従姉妹はただの噂だろうと思っていました。


従姉妹は現実主義的な性格で、オカルト的なことは一切信じていないのです。


一緒にタイムを測る子が4コースになってしまったのを、ひどく嫌がっているので、


「私が代わってあげるよ」


と、従姉妹は第4コースを泳ぐことにしました。

 

水泳部にこそ入っていませんが、そこそこ泳ぎの得意な従姉妹は、なかなかのタイムでゴールしました。


もちろん、足を引っ張られることなどありませんでした。


先に第4コースを泳いでいたクラスメイトたちと、


「足なんて引っ張られなかったよね」


「あんなの嘘に決まってんじゃん」


「えー、でも私は怖かったなあ」


と、お喋りしていました。すると、

 

「〇〇君、どうしましたか?」


先生の言葉に、お喋りしていた従姉妹たちは、なにごとかと見ると、向こう側のプールサイドに、生徒がひとり取り残されていました。


体育はふたクラス合同で男女分かれてやるので、そのときの女生徒は41人でしたが、1人は見学だったので40人。

 

全部で8コース、一度に8人泳ぎますから、5回繰り返せばちょうど40人が泳ぎ終えるはずで、生徒が余るはずがないのです。


取り残された子も、周囲のクラスメイトもポカンとするばかりです。

 

誰かが悪ふざけして2回泳いだのではないか、と先生は疑いましたが、何度確認しても生徒たちは1回しか泳いでいませんし、みんな困惑するばかりでした。

 

〖一人どこかに迷い込んだモノがいる〗


水泳の授業にいつのまにか幽霊が紛れ込んでいたのだ、と話題になり、しばらくはその話で持ちきりになったそうです。

 

現在は件のプールは取り壊され、別の場所に移設されていて、


そんな噂も囁かれなくなったようですが、従姉妹の同窓会では、いまだにその出来事が話題になるそうです。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter