以前働いていた帰り道のバスで起きた奇妙な体験の話です。
いつも同じ時間、同じ電車とバスに乗り通勤していました。
珍しく終電間近まで残業していた私は、いつも乗っているバスに乗ることができませんでした。
行き先はいつもと一緒でしたが、交通会社が違うのが、いつもと違う種類のバスに乗ることにしました。
バスの乗客は私と運転手のみ。
静かに揺れ動くバスの中で、疲れた私は眠ってしまいました。
体感10分程度な気がしたのですが、ふと起きたときには「終点、〇〇駅―、〇〇駅です。」と元いた駅に戻ってきてしまいました。
急いで起きて運転手に声をかけようとしましたが、私がいることに気が付かなかったのか、降りて駅の方へ向かっていってしまいました。
とりあえず帰りのバスを探すため一度降りたのですが、駅の灯りは消えておりバス停付近にある街頭だけが薄暗く照らされていました。
携帯は電源すら入らず、連絡をとるにもとれません。
タクシーもおらず、人ひとりいません。
もっと不気味なのは、近くにあるビルさえ明かりがついていないのです。
乗っていたバスの時計や駅の時計塔を確認すると、どちらも壊れているのか針は重力に逆らえず6時方向にゆらゆら揺れており、時間を確認することもできませんでした。
どうすることもできない私は家まで歩くことも考えましたが、徒歩40分の坂道を今の体力で歩く元気は残っていませんでした。
乗っていたバスはまだ明かりがありドアも空いていたので、運転手を待つことにしました。
10分程度待つと、先ほどの運転手であろう人が戻ってきました。
「すみません、〇〇行きのバスってまだありますか?」と聞くと、
運転手は無言で行き先ボタンを押し「このバスは、〇〇行、〇〇行になります。お乗りの方はしばらくお待ちください。」と自動音声アナウンスが流れました。
運転手は帽子を深くかぶっておりマスクもしていたので表情は見えず、また返答もないので少し奇妙に思いましたが、行き先は確認できたのでそのまま乗ることにしました。
しばらくするうちにドアは閉まり、「〇〇行、発車いたします。」と音声が流れバスは発車しました。
5分ほど経ったころ、突然バス内で降車ボタンが鳴り響きました。
乗客は私しかいないはですし、もちろん私は押していません。
降車位置につき、バスの扉は開かれました。
小銭が落ちるようなチャリン、チャリンという音が響き、しばらくして扉は閉じバスは発車しました。
そこからは怖くて目をつぶり、早く家に着くことをひたすら願い、私は気づいたらまた眠っていました。
ふと「おーい、お姉さん大丈夫?」という声と体が揺さぶられたので飛び起きました。
窓を見るとそこには見慣れた駅の景色があり、光のまぶしさに目を瞑りながらも安堵しました。
声をかけてくれたのは私がいつも乗っているバスの運転手で、私が寝ていたので気にかけてくれたことがわかりました。
さっきの見た不気味な光景は夢であったことに安堵してましたが、最後降りる時にかけられた言葉でそれが夢でないことを知ることになりました。
「さっきのバス、僕だったからよかったけど、本当は乗ったら帰れなくなるから気を付けてね」
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)