怪文庫

怪文庫では、多数の怖い話や不思議な話を掲載致しております。また怪文庫では随時「怖い話」を募集致しております。洒落にならない怖い話や呪いや呪物に関する話など、背筋が凍るような物語をほぼ毎日更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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水子供養

大学を卒業し、就職した年の事です。

 

職場が京都ということもあり、その時の私は実家を出て京都に住んでいました。

 

元々実家が田舎でしたので、仕事が休みの日はそこらを散歩したり地図アプリで周辺を調べたり気になるところにはとにかく行ってみるという過ごし方をしていました。


ある日、興味のひかれるお寺を見つけました。

 

詳細は敢えて伏せますが、授業で聞いたことのある歴史の人物に縁があるとか…

 

丁度次の休みに行くところは決まっていなかったのでそのお寺に行くことを決めました。


お寺につくと、大きな像や本殿の掛け軸など様々なものにひかれました。

 

ですが一番心惹かれたのは、そこは水子供養の場所という事でした。

 

そこには小さなお地蔵さまのような石に色とりどりの布がつけてあり、まるで小さな子どものように見えました。

 

そんな色んな大きさの石が所狭しと並び、子どもたちが身を寄せあっているようでした。

 

自分自身も本能的に良くないとはわかっていましたが、そんな石たちを可愛いと思ってしまいました。

 

その日の夜、夢を見ました。

 

普段から眠りの浅い方で夢はよく見る方なのですが、この日の夢はとてもおかしかったのを覚えています。


その夢は、私が子どもを孕む夢でした。

 

臨月に近いくらいお腹が出ていて、夢の中の私も「なんでお腹が膨らんでるんや…」と戸惑っていました。

 

そうこうしている間に陣痛が始まり、子どもが産まれるのだとわかりました。

 

まだ出産も妊娠も経験していない私ですが、お腹がとにかく痛くて苦しかったのを覚えています。そして、赤ちゃんが産まれました。


その赤ちゃんは生まれたてにも関わらずしっかりと眼が開いていました。

 

泣くことなく私の方をじっと見ています。男の子でした。

 

その目を見た途端に、この子に名前をつけてあげたい。

 

この子をとにかく大事にしたいという気持ちが湧き上がってきました。


「イスケ、あなたはイスケだよ。」

 

イスケ。そう私は名付け、そこで目を覚ましました。

 

目を覚ました私は、夢の内容は覚えていつつも変な夢だったなーお腹痛かったなーくらいにしか思っていませんでした。

 

そんな夢も忘れた頃、地元の友達が家に遊びに来ました。

 

どうも近くの栄えている街にメディアで取り上げられている占い屋があるので一緒に来て欲しいということでした。

 

私も占いというものは初めてでしたので一緒に行くことを決めました。


友達は恋愛運を占ってもらい、私は特になかったので健康などを占ってもらおうと順番を待っていました。

 

自分の番が回ってきて相談をしようと口を開くと、占い師の方が先に口を開きました。


「あなた、水子供養とかした?」


「いや、してないです。というかそもそも未婚ですし、そういったこともないです」


「そしたら水子供養してる所とかに行った?なんか…そういうのが視えるんやけど」


占い師さんは明言は避けておられましたが、何となく言いたいことはわかりました。

 

そして、その一言で思い出したのはあのお寺と夢です。

 

一連の話を相談することにしました。話し終えると、占い師の方は静かにこう言いました。


「あんまり言いたくないけど、その子はあなたの体でまた産まれたがってる。あなたにお母さんになって欲しがってる。つけた名前に心当たりとかある?」


イスケ。私がつけたこの名前には一切心当たりはありません。知り合いにもいません。

 

いつか子どもが産まれたらこんな名前つけたいな〜なんて話は、女子なら誰だってしたことがあるはずです。

 

ですが、そんなたわいの無い話の中にも一度たりとも出てきたことがない名前なのです。


「きっとその子がつけてもらえるはずの名前だったんじゃない?とにかく、そのことは忘れて。思い続けているとこの子もずっとあなたから離れないよ」


そして、相談は終わりました。

 

この話を書くきっかけになったのはこの夢を見てから5年後の現在、結婚をしてそろそろ子どもも…なんて話をしているときに思い出したのです。

 

私はあの子を産んであげるべきなのでしょうか。

 

それとも、私の意思なんて関係なくあの子が産まれてくるのでしょうか。

 

この話を書いている今、脚にじわじわと重みを感じるのは気のせいでしょうか。その重みが徐々にお腹に移動しているのも気のせいでしょうか。

 

今はまだ分かりません。

 

著者/著作 :無期不向き