怪文庫

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同級生の実家での謎の体験

当時の私はとある大学の4年生でした。

 

4年生ともなると、大学に通うことも週に1~2度ほどになり、バイトもしていなかったため春が終わる頃にはすっかり暇を持て余していました。


そんなとき、同級生のAから「うちの実家の方でバイトしない?」と声をかけられたのです。

 

Aはとある地方の出身で、私の出身県とそう遠くないこともあり、それがきっかけで1年の秋頃から仲良くしていました。


Aの家は代々続く農家らしく、たまに手伝わされると愚痴を聞いていたこともあり、てっきり農作業の手伝いかと思っていました。


体力を使う仕事は嫌だなあ、と考えていると、見透かしたようにAが言いました。

 

「農作業じゃなくて、お祭りの準備なんだよね。本当に簡単で、謝礼は高いわけじゃないけど…なんていうか、リゾート気分でちょっと来てくれたらいいから。」

 

それから2日後、私はAの地元の町に降り立ちました。


なんでもそのお祭りは割と大々的にやるらしく、隣県出身の私には馴染みがないものでしたが、AやAの家族はそれはもう楽しみにしているらしく、駅から家に向かう間も異様にテンションが高かったのを覚えています。

 

Aの家に着くと沢山の親戚に出迎えられ、汚れるといけないからと私とAは用意してある白い洋服のような、着物のようなものに着替えさせられました。

 

それから、Aの家の2階にある一部屋に案内され、そこにいるよう指示されました。


部屋の中は家具もなにもなく、窓と押入れがあるだけのシンプルな和室でした。


「…ここにいるだけ?」


「うん、本当にそれだけ。」


「どのくらいいればいいの?」


「ま、夕方になるまで―2時間くらいかな?トイレに行くときは部屋から呼んで教えてね」

 

一通り説明すると、Aは部屋から出て行ってしまい、私一人が取り残されました。


一人になって30分くらい過ぎた頃、段々と不安になってきました。


もしかして、ヤバい儀式に巻き込まれてるんじゃ…


前に、似たような話をネットの怖い話で読んだことを思い出し、私は恐怖に打ち震えました。

 

それから2時間以上が過ぎても、Aが戻ってくる様子はありません。


お手洗いに行きたくなった私は、そっと扉の向こうに話しかけてみました。


「A?いる?ちょっとお手洗いに行きたいんだけど―」

 

Aからの返事はありませんでした。それどころか、それから10分程度経っても人の気配が全くしないのです。


その時、カタン、と押入れから何かが倒れたような小さい音が響きました。


そういえば、何が入っているんだろう。開けてはいけないとは言われてないし―そう思いながら私は恐る恐る押入れを開けてしまったのです。

 

そこにあったのは大量の遺影でした。


1つや2つならAのご先祖様や親類で済ませられたでしょう。

 

しかし、そこにあったのは20枚とも30枚とも思えるほどの大量の遺影で、そのどれもが満面の笑みを浮かべていました。


そして、その中で一つだけ倒れている遺影がありました。


これは見てはいけない―絶対に。


そう思いましたが、私はどうしても気になって気になって仕方なかったのです。

 

遺影に手を伸ばしかけたその時でした。


「〇〇ちゃん!!」


私を呼ぶAの声でした。

 

振りむくと、部屋の入り口には息を切らしたAが立っており、その表情は怒っているとも悲しんでいるともとれる、なんとも言えない表情だったのを覚えています。


「見た?それ」


「ごめん、これ何?」


「ううん、なんでもなくて…そうじゃなくて、今すぐ帰って」


「でも…」


「早く!!」


普段声を荒げることもない穏やかなAの突然の大声に私は圧倒され、そのまま財布と携帯だけを持たされた私は着の身着のまま、Aに日木津られるようにターミナル駅へと向かうバスに無理やり押し込められました。

 

「説明してよ!なにこれ!」


そう叫ぶ私に、Aは悲しそうな表情をするだけでした。

 

家に帰った私は、それから何度もAに連絡しましたが、返事が返ってくることはありませんでした。


そして、Aは夏が終わると同時に大学を辞めてしまったようで、会うことも叶いませんでした。


Aの実家を再訪してみようか―そう思いましたが、あまりにも不気味だったためにそれをすることもしませんでした。

 

それが、10年ほど前の話です。

 

先日、私のPCに一通のメールが届きました。


差出人は見たことがないメールアドレスで、件名は文字化けしていて読めませんでした。


本文にはたった一言


「10年前のことを謝りたいです。〇月〇日に、〇駅で待っています。△△より。」

 

と記されていました。

 

△△とはAの苗字です。そして、10年前というと、あのAとの出来事しか思い浮かびません。


恐怖もありますが、何より私は気になって仕方ないのです。


あの時のAの複雑そうな表情や、倒れた遺影に何が写っているのか―

 

〇月〇日が近づいてきたので、出向いてみようと思います。


〇駅は大きい駅ということもあり、何か危害を加えられる可能性もないでしょう。

 

また、Aと会って話をしたら、続きを書き込もうかと思います。


私の話は以上です。

 

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