私には霊感のような何かを感じ取る力があるらしく、たまに道路を歩いているときやカラオケに行ったときに普通の人間とは少し違う感覚のナニカ――仮に幽霊と呼称します。
それとすれ違うことがあるのですが、その中でもひときわ“異質”だったモノたちは鮮明に覚えています。
今回お話する幽霊とは友人とルームシェアするため内検に訪れた団地で出会いました。
というのも当時、兵庫県の大学に友人と一緒に進学することになってそれなら一緒に住もうということになったのですが、その理由が『住んだ部屋に幽霊とかいたら怖いから』というなんともな自分勝手な訳で……
しかしその友人は私に霊感があることを知っており、時折『あれ幽霊?』と聞いてくるような人でした。
友人のあけすけな態度はある意味で裏表がなく好感が持てると思い、この人となら一緒に住んでもいいかもと思ってルームシェアを決めたました。
そんな友人と住める物件を探していたのですがそこで目についたのがその団地だったのです。
値段が異常に安いというわけでも――それこそ事故物件というわけでもなく、本当にただ学校に近いだけの団地だったのですが、そのマンションのエレベーターに乗った瞬間、イヤな雰囲気を感じました。
背筋がぞわぞわするというか、鳥肌が立つというか。
季節が季節なだけに寒いだけかなと、ケロっとした友人の顔を見て自分の勘違いだとその時は思っていました。
しかし、階層が上がっていくごとに徐々に寒気は増し、やけに遅いエレベーターにいら立ちのような焦りすら感じていました。
逃げたい、早くこの場から立ち去りたいと直感的に思っていたのかもしれません。
目的の階層についてエレベーターの扉が開き足場やに外に出るとその悪寒は薄まり、振り向いてエレベーターを見てもそこにはなにもいませんでした。
確実になにかイヤなものがあるので、帰りは絶対階段で帰ろうと思ったのですが、その階層の廊下にぽつんと1人、おじさんが無言で立っていました。
おじさんはこちらのことをじっと見ており、それは友人にも見えていたのか明らかにおじさんと目が合った友人はすぐこちらに目線を向け適当な話を振ってきました。
しかしそのおじさんの視線は敵意や害意を含んだものではなく、ただただ大きく見開いた目でなんの表情もないものでした。
そのおじさんからは先ほどのような刺すような嫌悪感は感じず、よくいる幽霊と同じなんとなく感じる違和感だけでした。
おじさんの横を我々が通り、ふと後ろを振り返るとそのおじさんはずっとエレベーターの方を向いていました。
おじさんは我々ではなくエレベーターをにらみつけていたのです。
案内された部屋に入ったあと友人に『今のおっさんアレ幽霊?』と聞かれ頷くと、続けて『オレ初めて見たわ!きっしょ!』とテンションが高ぶっている様子でした。
そんな友人に『幽霊は普通の人たちのようも立ち振る舞っていて、普段は見分けがつかない』と説明すると、さっきのおじさんが幽霊に見えたのか聞かれました。
霊感のようなものがない友人にもおじさんが見えたわけは、おそらく普通の幽霊とは違う異質ななにかをおじさんが持っていたからなのだとそう結論付けました。
が、ひっかかるのはおじさんを見て、さらに横を取ったときに感じた雰囲気は普通の幽霊と大差なく、そこまで強いなにかがあったとは思えませんでした。
それこそ、あのエレベーターは間違いなくなにかいると確信しており、もしかしたらエレベーターのなにかとおじさんは関係があるのだろうかと。
そのことを友人に説明すると『おじさんがエレベーターの怪異を食い止めてくれてんだよ』と突拍子のないことを言い始めたのです。
私と友人は内検のことなど忘れ、おじさんとエレベーターの怪異の関係に夢中になっていました。
そもそもこんなところに住む気もなかったので、内検を早く切り上げおじさんとエレベーターを見に行こうという話になりました。
団地の廊下に出るとおじさんはいなくなっており、エレベーターは別の階層にありました。
おじさんはエレベーターに追従している?じゃあどうしてこの団地に来たとき一階で出会わなかった?もしかしたらおじさんは普通の人間だった?と、様々な考察を友人としながら階段を下りていました。
流石にエレベーターがある階に行こうという話にはならず、おじさんとエレベーターの謎を残し私たちはその物件をあとにしたのです。
しかし、もし友人が最初に言った『おじさんがエレベーターの怪異を食い止めている』というのが本当なら、おじさんは出てくるのを食い止めているだけでエレベーターに乗った人間は怪異からどうやって身を守ればいるのか、この団地の一階以外の人間は毎日あのエレベーターに乗っているのかと思うとゾっとしてなりません。
そもそもエレベーターの怪異とはなんなのか。
おじさんと因縁がありそうな、でもあのおじさんではどうしようもなさそうな異質さをもっているような……
幸い姿かたちは見えなかったのですが、もしかしたらエレベーターの上か下に張り付いていたのかもしれません。
友人はエレベーターよりもおじさんのことに興味を持ったのか、おじさんの正体を友人と話しながら私たちは次の物件に行きました。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)