怪文庫

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呪いの中古ナビ

前職で、中古車販売店の営業をしていたときの話。


中古車を販売する時、というよりは仕入れてきた時に確認する必要があったのが、ナビのユーザーカスタム情報でした。


目的地履歴としてどんなトコロに行ったのか丸わかりだったり、登録地点として自宅なんかのプライバシーに関わる地点情報が残されていることが多いので、個人情報保護の観点からすべてデリートしておくことになっていました。


私がその時にいたお店ではアフターサービスは近隣の系列店にまわす仕組みになっており、メカニックは不在でした。

 

そこでナビ情報の確認・消去といった作業も営業スタッフが行うことになっていました。


ひと昔前の車載ナビというと車両純正でないものを載せていることも多く、中古車に乗った後付けナビなんてメーカーも型式も世代も本当に千差万別。

 

操作方法が分からないこともザラでした。


気の利いた機種であれば、フォーマットや初期化といった機能がついているのですが、モノによってはそうした機能がないか、取説を読まないと分からない裏コマンド化されているため門外漢にはわからず、1件1件登録情報を手作業で消すことも珍しくありませんでした。


ある日遅い時間に残業していると、車両置場にいた同僚Aに「ちょっと来て!」と声をかけられ、行ってみるとAは何だかニヤニヤした顔で、下取りされた軽自動車の助手席に乗るよう促されました。


運転席に座るAと並び、何かあったのか問うと「ナビデータを消してたんだけど…見てコレ」と示された画面には日本地図が。

 

縮尺デカすぎて何も分からんよ(笑)とツッコもうとしましたが、良く見れば日本地図の至るところに旗のマーク。

 

「この軽自動車でこんなに走りまわったのかね?すごいガッツだね」と言うと、Aは「それもそうなんだけど、まだヤバい感じでさ」と、ある登録地点をズームしました。


ピンが刺さった個所には寺院のマーク。

 

続けてその近くの登録地点を確認すると、これもまた寺院の卍マーク。

 

次を見てみると今度は神社の鳥居マーク。


それを見せられた私は「神社仏閣めぐりが趣味な人だったのかな?行ってみたい場所をリストアップしてたのか。マメだなぁ」と思いましたが、なおも各地点をズームする様子を見ていると、段々と違和感を覚えました。

 

違和感の正体はすぐ分かりました。

 

ピンの刺さった神社仏閣の名前が、どれもよく似ているのです。


お寺なら〇〇寺や△△院、神社なら□□社や✕✕宮といったように、名前のバリエーションは限られます。

 

でも登録された地点についてはそれだけではなく、名前のある一文字が共通していました。


「全部の地点に“呪“の字が入っててさ、ヤベーよな。呪いの巡礼でもしてたのかな」

 

と、Aはなおニヤニヤしていました。

 

 

たしかに見た感じは異様でしたが、「神社仏閣ってパワースポットだし、名前に“呪“とついているのは呪いを解くご利益があるのかも。クルマの持ち主が呪われてると感じて、呪いを解いてくれる場所を探していたんじゃない?」と、

 

穏当な推測を述べてみたところ、Aは「あー確かにそっちの方がありそうかも」と納得しつつ、興が削がれた様子で多少つまらなさそうにしていました。


さっさとデータ消そう、とAがナビを操作しはじめ、私も何となくそのままその様子を見ていました。


少し古い型のナビで、タッチパネルではなくリモコンを弄って、登録地点がリスト表示される画面を選択。


一覧画面をみたところ、二人ともその異様さにゾッとしました。


各登録地点にはそれぞれ、一文字の名称がつけられていました。


登録日時でソートされた一覧は、縦読みになっているようでした。


「天野礼華あまのれいかアマノレイカ苦魔惨病…」


女性らしき名前(一応仮名にしてあります)と、良くない意味の漢字が支離滅裂ながらひたすら並んでいました。


私は『ガチで見てはいけないモノを見た』と感じ、Aの方を見ると、Aは先程までのニヤニヤをとりもどしており「マジで呪いの巡礼だったんじゃん!?」と嬉しそうにしていたので、図太いヤツだと少しうらやましく思いました。


それから興味本位でその軽自動車の顧客情報をみると、所有者は亡くなられており、遺族の方が持ち込んだクルマでした。

 

持ち主は女性でしたが天野姓でもなく、売り主もまったく別の名前でした。


Aは登録情報をポチポチと消しながら「近くにも呪いポイントある!今度行ってみよ!」と楽しそうでした。


後日、その軽自動車はオークションに売られました。


年式の割に走行距離が長く、ぜんぜん値段がつかなかったそうです。


そしてAは「近所の呪いスポット」の住所をメモして、次の休みに行ってみたそうです。

 

行った先は山あいのお寺で、大伽藍というよりは地域のお寺といった感じ(Aに写真を見せてもらいました)。


正面をウロウロしてると人目につくと思い、横手の墓地を通り抜けて建物の裏に回ると、一本の、枝がすべて落とされて曲りくねった樹があったそうです。


そしてその樹に、錆びた太い釘で女性ものらしきストッキングが打ち付けられていました。


Aは「呪いの儀式の証拠だ!」と写真を撮り(これも見ました。太い釘=いわゆる五寸釘のようでした)、証拠品を持ち帰るためにストッキングの端をちぎろうと力を入れたとき、指先にチクリと痛みがあったそうです。


変な虫に刺されたかな、と見てみても特に腫れたりはしておらず、それでもストッキングに触れるたびにピリピリ痛むので、ダニでも繁殖してるのかな?と気持ち悪くなり、ストッキングを裂いて持ち帰るのは諦めたそう。


この話を聞かせてくれて以来、Aの様子が徐々に変わっていきました。

 

何かふさぎ込んでいるようでもあり、割と騒がしいヤツだったのに、口数も減っていきました。


ひと月ほど経った頃、Aは休職しました。


体調不良だそうで、店長いわく「精神やっちゃったみたいだよ。意外だよな」との事でしたが、私は特にAの呪いスポットめぐりだか肝試しの事を誰かに言う気にはなりませんでした。


さらにしばらくして、Aは退職扱いとなりました。失踪したそうです。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter