怪文庫

怪文庫では都市伝説やオカルトをテーマにした様々な「体験談」を掲載致しております。聞いたことがない都市伝説、実話怪談、ヒトコワ話など、様々な怪談奇談を毎週更新致しております。すぐに読める短編、読みやすい長編が多数ございますのでお気軽にご覧ください。

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嘘つき

私、幽霊って信じてないんですよ。

 

これを言うといろんな人に驚かれるんですけどね。あなた怖い話好きだから、てっきり信じてるのかと思ってたって。


でも好きなのと信じてるのとは別問題だと思うんですよね。


いわゆる幽霊や怪異の目撃談や体験談なんてありますけど、そういった話が私大好きなんです。あ、ホラー映画ももちろん好きです。


正直ホラー映画に関しては、創作…嘘だとわかってるから手放しで楽しめるんだと思います。どんなに怖くても嘘なんだから、安全なんですよね。


体験談とかに関しては、ほとんどが勘違いだと思ってます。風の音を声と聞き間違えたとか、ビニール袋が飛んでるのを幽霊と見間違えたとか。


科学的に証明できるものもあるんじゃないかなって考えるとワクワクしてきちゃいます。ミステリーとかも好きなんですよ、私。


あとは脳がバグって見間違えることもあるんだろうなって思いますね。

 

脳の病気で幻覚を見ることもあるらしいですし。


まあ、あとは嘘ですよね。幽霊を見ましたって嘘をつく。


明らかに嘘だって、誰にでもわかるのは良いですよ。話す方も聞く方もわかってる場合。これはただの冗談ですからね。でも騙そうとするのは嫌ですね。


昔からいますよね。周りの注目を集めたくて自分には霊感があるんだって言い張る人。

 

小学生の時なんて特に、そういう同級生がいたなんて人も多いんじゃないでしょうか。


大人になってからもたまにいるんですよね、嘘をつく人。


もちろん本当に幽霊が見えるって言ってる人もいますよね。これは本人が自分には霊感があるんだって信じていて、勘違いや脳のバグによって見えたものを、本物の幽霊だって信じ切ってる。


この場合、その人は嘘をついてるわけではないですから、腹は立ちませんね。

 

むしろどんなふうに見えているんだろうって興味が湧いてきます。


嘘をつく人は、やっぱり腹が立ちます。

 

いい大人が何言ってるんだろうって。嘘に騙されるようなやつだって、こっちまで馬鹿にされてるのかなって思っちゃいます。


嘘をついてる人ってなんとなくわかるんですよね。そういうのありません?なんとなく白々しいというか、わざとらしいと言うか。


うまく説明できないので、まあただの直感みたいなものなんでしょうけど、「あ、この人今嘘付いてるな」ってわかっちゃう。


最近、怪談って密かに流行ってるじゃないですか。怪談を聞く会なんかもあったりして、私そういうのも好きなんですけど、たまにいるんですよ、そういうところでも体験談と称して嘘を付く人。


怪しい男が入っていった建物を下から見上げていたら、やがて窓からその男が顔を出すんだけど、男のその顔がぐちゃぐちゃだった、なんて話を聞いたんですけどね、ああ嘘だなって。

 

怪しい男がいたのも、窓から男が覗いたのもたぶん本当の話なんですよ。顔がぐちゃぐちゃってところだけが嘘。なんだかそこだけわざとらしく感じちゃって。

 

とにかく私、そういう相手を騙そうとする嘘は嫌いなんです。

 

 

Aちゃんも嘘つきでね。変な小さな嘘をたくさんつくんですよ。


彼女とは同じ大学なんですけど、実はオープンキャンパスの体験授業で一緒になって。

 

グループに分かれてディスカッションするっていう授業で、同じグループだったから覚えてたんです。


大学に入ってから同じ講義を受講してることに、一年生の二学期になってから気づいたんですよ。

 

結構人気のある講義で人数も多かったから、なかなかわからなかったんですね。

 

私の方から話しかけました。オープンキャンパスで一緒だったよねって。


Aちゃんは最初驚いた顔をしてたけど、すぐに笑顔になって、覚えてるよって。


それからは一緒に講義を受けるようになりました。懐かれちゃったんですよね。

 

先に言ったようにAちゃんは嘘つきで、ちょっと変わってる子だったんで、大学で友達ができなくて悩んでたみたいなんです。

 

そこで私が話しかけたからすごく嬉しかったみたいで…。


Aちゃんの嘘についてなんですけど、まあ他愛ないものばかりなんですが、親戚に有名芸能人がいるとか、実は大病を患ってていつ何が起こってもおかしくないとか、しょっちゅうそんなこと言ってましたね。


私もあまり良い性格ではないんで、彼女の嘘を聞きながら、変な子だなって心の中で笑ってました。

 

それで同じサークルの友達に「Aちゃんって子が今日はこんな嘘をついてね」なんて話題にしたりして。

 

Aちゃんのことを知ってる子達も「よくあんなのの相手してるね」なんて言って笑ってました。


ネタになるから良いかななんて最初は思ってましたけど、毎回毎回嘘をつかれるのってリアクションにも困るし、だんだん疲れてくるですよね。

 

適当に受け流してればいいんですけど、なんかイライラしてきちゃって。

 

ある時「いい加減にしてよ」ってAちゃんに言っちゃったんです。

 

「いつも嘘ばっかりつかないでよ」って。


Aちゃんはびっくりしてましたね。それまでは私が話を聞いてくれてたのに、急に嘘つき呼ばわりしたものだから、慌てちゃって。


「嘘じゃないよ、全部本当だよ」って言うんですけど、話が矛盾してたり、やっぱり白々しかったりで、絶対嘘だ信じられないって思って。


その日はなぜか虫の居所が悪かったこともあって、「あんたの話は聞くに堪えない」とかそんなことをAちゃんに言ったように思います。

 

Aちゃんは泣き出しちゃったんですけど、私はそんな彼女をそのまま放ってその日は別れました。


それからですね。Aちゃんの嘘の内容が変わってきたのは。


それまでは親戚が芸能人とか大病を患ってるとかの「実は〇〇なんだよ」っていうものだったんですけど、最近ストーカー被害に遭ってると言いだしたんです。


いつものように白々しい感じだったので、すぐに嘘だとわかりました。

 

私は冷めた目で彼女を見ながら「警察行けば?」と言ったんです。

 

するとAちゃんは「無駄だと思う。だって人間じゃないから」なんて言うんです。


もう笑っちゃいましたね。

 

人間ではない何かにストーカーされてるなんて言うんですから。

 

ゲラゲラ笑ってる私に「本当なんだよ!」って必死に言ってるAちゃんは本当に滑稽でした。


それから毎週、講義のたびに私の隣にやってきては、Aちゃんは被害について語るんです。

 

駅からアパートまでつけられたとか、ポストに変な手紙が入ってたとか。


赤い服を着た髪の長い女がついてくる。カーテンの隙間から覗かれた。人間が書いたとは思えないような見たこともない文字がびっしり書かれた便箋がポストに入っていた云々…。


赤い服の女なんて、いかにも都市伝説や怪談に出てきそうじゃないですか。捻りがないな、なんて思いましたね。


ほとんど無視してる私の横で、講義が始まるまで、或いは始まってからも小声で被害を訴えるAちゃんは、だんだん常軌を逸しているように思えてきました。


最初は白々しかった訴えも、なんというかだんだん真に迫ってきたというか、彼女の焦りが見えてきて、本当っぽく聞こえてきたんです。


なんとか私に信じてもらいたくて、気を引こうと必死なんだろうと最初は思いました。

 

でも途中から、彼女は本当に被害に遭って困っているのだと感じるようになりました。


嘘つきの人が嘘をつき続けていると、やがてそれが本当のことだと自分でも信じ切ってしまうことってあるそうじゃないですか。きっとそれだと思いました。


人間ではないものからのストーカー被害。彼女はそれを本当のことだと信じている。つまり、Aちゃんはすでに嘘はついていないんです。


最初は嘘だったはずのものが、嘘ではなくなってしまったら。赤い服の女の話は本当のことなのだとしたら。


どうなると思います?


実は昨日、Aちゃんから写真付きでメッセージが届いたんですよ。

 

赤い服の女が怖くてひとりでアパートにいられないから、Aちゃんは私の住んでるアパートまで着たらしいんですね。わりと近いんです、私たちの家。


それでね、私の部屋の玄関前に変な人が立ってるのが見えて、柱の陰から様子を伺って、その人の写真を撮って私に送ってきたんです。

 

「こいつがあなたの部屋の前にまでいる!」って。


赤い服を着た髪の長い女でした。


昨日は私、バイト終わりにメッセージに気づいたので、そのまま帰らずにネットカフェに行って夜を明かしました。

 

そしてこの話を投稿している訳なんですが、私はどうしたら良いと思います?

 

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