怪文庫

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海の祠の話

私がまだ幼い頃に、地元で海にまつわる不思議な体験をしたことがあります。


私がずっと幼少期から育ってきた地元は、海に面した小さな町で漁業が盛んでした。

 

その関係からか、地元で行われる祭りは他の地域に比べて、海に関する神に感謝するものが多くあったように感じます。

 

地元の小学校では小学3年生になると授業の一環で町探検をする機会があり、私も例外なく小学3年生になった夏、町探検に参加することになりました。


その町探検での主なプランとしては、半日かけて地元の町にある有名スポットや神社仏閣を巡り、予め手渡されていたプリントに神主や住職から聞いた情報を書き込んでいくというものでした。


子供は探検という言葉に弱く、私も含めクラスメイトたちはその日いつも以上にはしゃいでいたことを覚えています。

 

いくつかの有名なスポットを回り、最後に海の堤防の近くにある小さな神社を訪れた際の事です。


その神社は名前こそ神社とは付いていますが、地元の人が大漁祈願であったり水難事故防止祈願のために建てた神社で、歴史は長いものの普段から神主などはおらず、その近くに住む地元の漁師にその神社の話を聞くことになりました。

 

この神社が建立した理由や歴史など、その漁師の方が語ってくれた後に、その神社周辺を少し探検することになりました。


といっても小さな神社のためすぐに見るところは終わり、最後の方は堤防を越えた砂浜ではしゃぐことがメインになっていました。

 

私もクラスの友達と砂浜で遊んでいると、ふと、神社の裏手に小さな祠があるのを見つけました。

 

神社の表側からは見えず、砂浜の方に来なければ見つけられなかった「それ」に、思わず宝物を見つけたような感覚になり、それまで遊んでいた友達の輪を抜け出し私は祠の方に向かいました。

 

その祠は、先程見た神社とは違い、かなり長い間手入れされていないようで、海風の侵食もあって屋根などがボロボロになっていました。

 

また不思議なことに、祠の観音開きの戸にはベタベタと大量の御札(海という文字は唯一解読できた)が貼っており開かないようになっていました。


今考えると、明らかに普通の祠とは異質であるにもかかわらず、何故かその時の私はその祠の事が全く怖くはなくむしろ面白いと感じてしまいました。

 

また、その祠周辺の空気は夏にも関わらず、えらく澄んでいたことを覚えています。


私は秘密基地を見つけたような気持ちになってしまい、この祠を見つけたことは誰にも言わずに秘密にしておことうと、その日はそのまま帰り、また別の日にもっと詳しく調べようと思いました。

 

その日以降私は定期的にその祠を訪れるようになっていました。


普通子供は一つのことにすぐに飽きそうなものですが、何故かその時の私はその祠を気に入り、いつしか祠を訪れることが日常の一つのルーティーンのようになっていました。


今考えるとその祠に「呼ばれていた」のかもしれません。

 

そんな日々が続いたある日、いつものように祠を訪れた私は、祠にベタベタと貼られていた御札の一部が破れかかっていることに気がつきました。


不意にその御札に手を触れると、ペリっと御札は簡単に破れてしまい、観音開きの戸に隙間が出来ました。


祠の中に何が入っているのか興味津々だった私は、その隙間に手をかけ思いっきり開けてしまいました。

 

祠の中にあったのは、白い何か。

 

私はその白いひんやりとした何かを手に取ると、突然私は走り出し海に向かって「それ」を投げ捨ててしまいました。

 

何故その当時の私はそんなことをしたのかわかりませんが、今思うと身体が勝手に動いてしまったとしか考えられません。


何かにまるで操られているかのようにその白い何かを勢い良く海に向かって投げ、ポチャンと海に落ちた音がすると、周辺の温度は夏にも関わらず一気に下がり、どこからか高い女の人の喜ぶような笑い声が海に響き渡りました。

 

その笑い声を聞いた私は、何故か恐怖ではなく悲しい感情が溢れかえるという不思議な気持ちになったことを覚えています。

 

その後急に冷静になった私は、勝手に祠のものを捨ててしまったという自分のやったことを、地元の人達に怒られてしまうのではないかと怖くなり、急いでその場を離れました。

 

あれからその罪悪感からか、祠に通うことはめっきり無くなりました。

 

そのタイミングで、親の転勤が決まり、生まれ育ってきたその地元から引っ越すことになった私はいつしかあの不思議な出来事も忘れていました。

 

この数日前までは。

 

大学生になった私は、授業の一環で人体のことについて学ぶ機会があり、骨格標本を見ながら学習していくことになりました。

 

その時気がついたのです。


私がかつて海に向かって投げた、あの祠に置いてあった白いものは、小指の骨だったということに。

 

そこからあの地元のあの祠になぜそんな物が祀ってあったのか気になり、不意にインターネットで自分の地元について調べてみました。


するといくつか気になる情報が見つかりました。


あの地元は、本来地形上海鮮物が豊富に取れる地域ではなかったのにも関わらず、なぜかある時から漁業で食べていけるほど海鮮物が豊富に採れるようになったそうです。

 

その時期はちょうど、あのかつて訪れた神社が建立された時期と一致していました。

 

あの白い物は本当に小指の骨だったのか。

 

なぜあんなものが神社の裏手にある祠に祀ってあったのか。そもそもあの海で聞いた女の人の声は何だったのか。

 

何一つわかりませんでした。


ただ、不思議なことに私があの白い物を海に投げ捨てたあの時期から、地元では漁獲量が減ったそうです。

 

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