私は、人の頼みをなかなか断ることができません。
その性格があってか、よく他人から依存されてしまいます。
私は、コンビニでアルバイトをしていました。
コンビニで接客をしていても、お客さんと関わるのはたった数分です。
そのため、特に仲良くなったり、顔見知りになることはそんなに多くありません。
でも、お客さんがストーカーになってしまったことがありました。
どこのお店でもそうだと思いますが、お客さんに対してしっかり挨拶をする、セールストークをする、接遇をしっかりするというのを重んじているお店で働いていました。
どのお客さまにも平等にです。私も当たり前のように挨拶をしっかりして、笑顔で接客を心がけていました。
それが原因だったのかわかりませんが、いつしか毎日来店するお客さんができました。
私は、「今日もありがとうございます」などと声をかけるようになりました。店員としてです。
それから、お店で会うたび私が品出しをしている時などに、他愛のない話をするようになりました。
お話をしているうちに違和感を感じていました。
どんどん私に容姿が似ていったのです。
同じ髪型、同じ場所にピアス。
気のせいかなと思いたかったのか、あまり気にしないようにしていました。
でも気のせいではない出来事がありました。
私は偶然その頃に入院をして病気のため手術をしました。
そのため、制服から見える腕に採血や点滴の針を刺した痕がたくさんある時がありました。
ある時お客さんから、「同じ場所に傷をつくってきました」と言われて見せられた腕には自分と同じ場所に刺し痕がたくさんありました。
ゾッとしました。
普通の感覚だったらこんなことはしないと思う、この人は気をつけなければいけないと思って、店長にも相談をしてシフトを予測されないように変えたり、距離を置いたり、そのお客さんがきた時にはバックヤードに行かせてもらうようにしました。
店では他のクルーにも周知して、気をつけるようにしていました。
そのように気をつけて仕事を続けていたある時、そのお客さんからお手紙をもらいました。
びっくりしてお客さんが帰宅された後に裏で読みました。
「いつもありがとうございます。今度お食事に行きませんか」という言葉とともに電話番号と名前が書いてありました。
私はそんなつもりではなかったので驚いて、少し怖いと感じて一緒に働いていた人にその紙を見せました。
すぐに店長に報告してくれて、そのお客さんはマークされるようになりました。次に何かあったら出禁にしたり、警察に相談することも考えようと決まりました。
でも、そこからしばらくは特に大きな出来事はありませんでした。
しばらくしてからです。大きな出来事は忘れた頃にやってきました。
私は当時、Wワークで病院でも掛け持ちをして働いていました。
でも遠くて、自宅から電車で1時間の距離にあります。
私はいつものように1人で、退勤しました。
病院の入っているビルを出たところで、「おかえり。待っていたよ」と声がかかりました。
そこにいたのは、あのお客さんでした。
いつの間にか、私のもう一つの職場が相手に知られていたのでした。
いつ、どこで、と言うのは全くわかりません。
私は怖くなって、走って駅に向かってチケットを買ってあったのでグリーン車に逃げ込みましたが、思いも虚しくついてきました。
途中の駅で降りて帰ってもらうように言い、その日は別れました。
しかし次の日、自宅のマンションのエントランスで待たれていました。
さすがにおかしいと思って、すぐに警察に相談をして、接近禁止命令が出ました。
そこからアルバイトをやめ、仕事も変え、その人と会うことは無くなりました。
しかし、マンションのエントランスで鉢合わせした時に言われた言葉があります。
「結婚してくれないなら死にます。」
依存してくる人は、自分の命を引き合いに出すことがよくあります。
この人もそうでした。
命を出されると、言うことを聞いてもらえると思うからだと思うからです。
拗れた愛によって人に執着してしまい、相手と自分の認識にずれが生じてこのような事例に発展するのはとても怖いなと思いました。
私は、コンビニのクルーとしてお客さんに接しただけだという認識です。
しかし、相手からしたら自分に向けられている好意と感じたのだと思います。
その一瞬の認識の違いから命云々の大きな話になってしまうのだから、人と関わるのは怖いです。
実は私は知り合い方やきっかけは違えど、こういう事例は3回目なのです。
私にとってはとてもありふれたことです。自分自身の身の振り方も気をつけなければならないのですが、相手のため、お店のため、職場のためと頑張ったことが裏目に出てしまうのが怖いです。
私は少なからず、人と関わることや親切にすることなどが怖いと思ってしまうようになりました。
今でこそ克服しましたが、人と関わると言うことはこんなにも難しくて怖いことです。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)