怪文庫

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花泥棒の家

これは私が親戚のおばさんから聞いた話です。


おばさんの家の近所に、昔から続く大きいお家があって、そこには奥さん・旦那さん・旦那さんのお義母さんの3人が暮らしていたそうです。


奥さんはとても社交的で優しく、ご近所の中でも「あそこは本当にいいお嫁さんをもらったわね」と言われるくらい。


奥さんはガーデニングがとても好きで、嫁いできてからは庭にたくさんの花木を植えて、庭のデザインも大きく変えてこだわっていたそうです。


季節ごとにいろいろな花が咲いて、ご近所の人もよく見せてもらったり、庭でお茶を飲んだりしていたんだとか。


この花がいつからか誰かに摘み取られ始めたそうです。


始めは何本かだけ盗られていく些細なレベルでした。


すごくきれいだから誰かが持って行っちゃったのかねなんて話になってたみたいなんですが、次第にエスカレートしていったそうです。


枝をバッサリ刈り取られるとか、外に面しているところの花を全部摘み取られるとか。


困って防犯カメラを置いたそうなんですが、なぜかよく撮れていなくて誰がやったかわからなかったそうです。


そのうち、庭の花木以外にも嫌がらせがエスカレートしていきました。


例えばポストに奥さんを罵倒するような言葉を書き殴った紙が大量に入っていたり、玄関の前にゴミがぶちまけられていたり。


奥さんはとてもいい人で大きい家に住んでお金持ちで、皆に人気だから誰かに妬まれてるんでしょうってご近所さんが奥さんを励ましていたみたいなんですが、それでもずっと嫌がらせは続きました。


誰からこんなに恨みを買っているのかわからなくて、奥さんも気持ちが追い詰められていったんでしょうね。


だんだん情緒が不安定になっていって、前のような朗らかさがなくなって、明らかに鬱のような病んでいる状態になっていったそうです。


そしてお庭で育てていた少し珍しい花、育て方が難しくてなかなかつぼみをつけないという花がやっとつぼみをつけてもう少しで咲くというときにそれをポッキリ折られてしまって。


奥さんももう限界になったようで、旦那さんと一緒に家から出て行ってしまったそうです。

 

 

それでこの奥さんへの嫌がらせの犯人なんですが、実はそこのお義母さんがすべてしていたことのようなんですね。


てっきり外の人の仕業だと思われていたので、ご近所さんはびっくり。


ご近所さんの1人がそのお宅を通りがかったとき、庭をちらっとのぞいたらそこのお義母さんが庭にいたんですって。


剪定ばさみを持っていたので、お嫁さんの代わりにお花の世話でもするのかなと思っていたら、物凄い勢いできれいな花をジョキジョキ落としていって、明らかに剪定ではなかったと。


一心不乱のただならぬ様子で、自分が何か見てはいけないものを見たような、見間違いだったんじゃないかとか、そのご近所さんは怖くなってずっと言えなかったけど…と打ち明けたそうです。


それを聞いた人は嘘でしょう!?と衝撃を受けたものの、実際嫌がらせに関する目撃情報はそれ以外ほとんどなかったので、家の中の人がしていたことなら、外の犯人が見つからなかったこともうなずけると納得したそうです。


奥さんがきれいで明るくていい人だから、妬ましくなっちゃったのかもしれないね、ひどいねと。


もうそこのお義母さんはあまりご近所づきあいをしなくなってしまったそうで、近所ではお嫁さんを追い出した苛烈なおばあさんのお家として、腫物をさわるような扱いになってしまったということでした。


そして実はこの話には少し続きがあります。


親戚のおばさんのご近所に、私の大学時代の友達の家もあるんです。


地方の狭い地域ですから、こういう偶然も起こります。


それで先日その友達に会ったとき、おばさんから聞いた話をしてみました。


すると、友達が把握している話は少し違いました。


なんとそこのお家の奥さんは、お姑さんをずっといじめてたと言うんです。


元々その家は旦那さんの実家で、旦那さんが大人になって家を出たすぐ後に旦那さんのお父さんが病気で亡くなって、お母さんがずっと1人で住んでいたようなんですね。


全く実家に帰ってこなかった旦那さんが、奥さんを連れて実家に戻ってきたときは近所で少し話題になったそうです。


息子さんとお嫁さんが来たなら、奥さんも寂しくないわねなんて近所で話していたらしいんですけどね。


どんどん家がお嫁さんの趣味に染まっていって、奥さんはほとんど姿を見せなくなって、昔から奥さんと仲の良かったご近所さんが奥さんとなんとか連絡がとれて何かあったのかと尋ねたら、実はお嫁さんにいじめられてるって。


家政婦みたいにこき使われて、実家のお金もどんどん使いこまれて、お嫁さんがそれを主導してるんだけど、息子さんは全く咎めないでお嫁さんのやりたい放題になってるって泣いてたそうです。


大きくて裕福なお家だそうなので、お嫁さんは欲に目がくらんだんでしょうか。


私の友達の家を含む一部のご近所さんたちの間では、この件は息子さん夫婦の自業自得と言われているそうです。


友達には悪いですが、私はその地域には絶対住みたくないですね。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter