怪文庫

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最上階の怪異

私の通っていた小学校はどこにでもあるような造りの校舎だったのですが、1点だけ少し変わったところがありました。

 

最上階だけ他の階と比べて明らかに古いということです。


他の階は廊下が白いコンクリートで造られているのにも関わらず、最上階は木製の古びて汚れた廊下だったり天井が異常に汚れていたりと、小学生の目からしても明らかにそこの階だけ異質な空間でした。


そのようなことも関与してからか、私の小学校の七不思議の一つに「校舎の最上階では、夕方になると奇妙な現象が多発する」という物がありました。

 

トイレの花子さんや増減する階段、廊下に現れるテケテケといったよくある怪談もその階で起こるのだと噂されていました。

 

当時小学生だった私は、好奇心が溢れつつもどこか怪談に対して否定的な子供で、クラスメイトたちが怪談にまつわる噂話によるパニックを起こすたびにその現場に特攻していき、みんなの勘違いだったということを証明するということを繰り返していました。

 

そのため皆からちょっとやそっとのことでは怖がらない頼りに出来る存在だとよく言われていました。


そのようなこともあり、

 

ある時「校舎の最上階では、夕方になると奇妙な現象が多発する」という七不思議に対して、ただの噂だと証明しに行こうと何処か度胸試しのようなことをしようという話になりました。

 

私の他に数人のクラスメイトで結成されたチームで、夕方になるまで校舎に残って最上階をパトロールすることになったのです。

 

決行当日、夕方になるまで待っていた私たちはドキドキしながらも最上階に向かいました。

 

普段は明るい最上階も薄暗い中夕日がさして赤く染まっており、さすがの私も普段とは違うその姿に内心ビビっていたことを覚えています。


最上階のトイレに花子さんがいないか探したり、階段の数は変わっていないか調査しつつも、特に異常がなかったことでやっぱりただの噂話ではいかと安心していたその時です。

 

1人のクラスメイトが廊下で何かの声を聞き、姿を見たと言い始めたのです。

 

最初みんなはテケテケが出たのではないかと盛り上がったのですが、どうやら詳しく話を聞くとその声は沢山の人が一斉に喋ったような声で、見えたものも何か黒いモヤの集合体のようだったそうです。

 

その話を聞いた一部のクラスメイトはすでにパニック状態で「もう帰ろう」と半泣き状態でした。


しかしその正体が判明していない状態で、何しろまだその姿を確認していなかったのが悔しかった私はまだ帰らないと調査を続行。

 

奇妙なものを見たそのクラスメイトにそれはどこに行ったのか聞くと、廊下の奥の方に向かったと指をそちらの方へさしました。


その方向は、屋上に繋がる階段がある場所で、普段先生からもあまりそちらの方へ行くなと言われていた所でした。

 

そちらの方へ向かおうとすると、「先生からダメって言われてるじゃん」と叫ぶクラスメイト。

 

一瞬私はその声を聞いて足を止めようと思いましたが、その叫び声に被せるかのように先ほど聞いたとされる沢山の人が一斉に喋ったような声が聞こえました。

 

流石に今度こそ、その場にいたクラスメイト全員がその声を聞き一同はパニックに。


逃げるかのようにして反対方向の階段を使ってその階を降りようとするクラスメイトたちでしたが、私はどうしてもその姿が見たくて、屋上に繋がる階段に走って向かいました。

 

今考えるとかなり勇気のいることをしていたのですが、その時は何かに取り憑かれたように必死でした。

 

廊下の角を曲がりその場所に着くと、確かに何かを見つけました。


先ほど聞いていた黒いモヤの集合体のような何かが、屋上に繋がる階段に佇んでいるその姿を。

 

あまりの衝撃にその姿を目撃すると、私は体が固まってしまいその場から動けなくなってしまいました。

 

本能的に声を決して出してはならないと悲鳴を呑み込み、しばらく「それ」を凝視していると、ゆっくりと形を変えながらこちらに向かってくる「それ」は動けない私の体を飲み込むかのようにして通過していきました。


不思議なことに「それ」に体を通過された時、モヤのような姿からは想像できないような生ぬるくぬるっとした生き物のような感触と、なぜかわかりませんが恐怖ではなく、幸福感と高揚感が襲ってきました。


何とも言えない不思議な感覚になった私は、「それ」が通過していく姿を振り返って目で追うこともせずに、呆然と立っていました。

 

数秒でしょうか。

 

ふと我にかえった私は、「それ」が通過したであろう後ろを振り返ると、そこにはもう何もいませんでした。

 

その後急に恐怖が襲ってきた私は、急いで廊下を走り、先に降りたであろうクラスメイトたちの姿を追ってその場から逃げました。


クラスメイトたちからは、私がいないことに気がついた後「悪いもの」に連れていかれたのではないかと心配したのだと泣きつかれましたが、私は正直に何かがあの場所にいたこと、そして何処かに行ってしまったことを告げました。


怪談否定派であった私が怪異に遭遇したということで、その話を持ち帰った後のクラスは一種のパニック状態になり、その話を聞いた先生からはあの場所に行くなといっただろうとこっぴどく怒られました。

 

詳しく私たちの話を聞いた先生からは私たちが聞いた声は気のせいだし、私が目撃した「それ」も影か何かを勘違いしたのだろうと言われました。

 

しかし確かに「それ」は移動をし触れた時の感触があったのです。


先生にはそれ以上何も反論しませんでしたが、最後に何故屋上に繋がる階段に近づいてはいけないのかという質問だけしました。

 

その回答は「私たちが屋上に登る危険性があるから」というものでした。

 

しかし、それなら屋上に行くなと注意するだけで良い気がします。


それだけの理由ではない、何か別の理由があったのではないかと今では思います。

 

現に私たちが最上階を調査する前から、最上階にまつわる学校オリジナルの怪談があったのですから。

 

あれは一体何だったのか。結局わからないまま、エアコンをつけるということで校舎の耐久工事が始まり、それに伴いあの最上階は取り壊されてしまいました。

 

今あの小学校に通っている生徒は、最上階がかつてあったことも知らないでしょう。


それに私の体を通過した後、「それ」はどこに行ってしまったのでしょうか。


結局わからないことだらけですが、これが私が体験した小学校で起こった奇妙な話です。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter