怪文庫

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カバの木

これは、中部地方にある某公園のお話です。


その公園は子供達だけでは無く、大人もジョギングや犬の散歩の為に利用している比較的大きな公園で、園内には【カバの木】と呼ばれる動物のカバの姿に見える不思議な形をした木があります。


公園の管理人とボランティアの人達で【カバの木】の周りに四季折々の花が植えられていて、住民から愛されている木でした。


ある日の早朝、犬の散歩の為に公園へ訪れた男性が【カバの木】の周辺が荒らされている惨状を目撃しました。

 

周囲の花が何者かに踏み倒されており、木の枝は一部が折れ、地面には酒の空き缶や、菓子の空袋等のごみが散乱している状況です。


その男性は管理人と知り合いだったので早急に連絡をしました。


管理人が現場に確認しに行くと見るも無残な状態に言葉を失いました。


警察へ相談に行くも、防犯カメラ等に映像として決定的な証拠が映っていないと逮捕が出来ないと言われ、肩を落として帰って来ました。


それから1ヵ月程経過しても有力な情報は得られず、このまま泣き寝入りするしかないのかと管理人は諦めていました。


そんな中、管理人の元に2人の男子大学生が訪れたのです。

 

話を聞くと近くの大学に通う2年生で、1か月前の事件の犯人は自分達だと言うのです。


自分達の他にあと3人仲間が居て、あの日は居酒屋に行った後、飲み足りないという話になり、コンビニで酒や菓子を買い公園に行ったのです。


それなりに騒ぎながら飲み食いをした後、全員酔い潰れたとの事ですが、寒さで目が覚めた時に周囲を確認すると、とんでもない事をやらかしたと思い、その場を逃げる様に立ち去ったのです。


その後、公園の件は近所で話題になっていると噂で聞き、自首しようとも考えたようですが、退学になるのが怖くて出来なかったそうです。

 

自分達だけの秘密にするつもりだったのです。


ところがある日、仲間の1人が交通事故に遭ったんです。

 

幸い命は助かりましたが、大けがをして大学を休学する事になりました。


更にその2日後にもう1人の友達が、駅のホームで転落したのです。

 

奇跡的に命は助かりましたが、障害が残るかもしれないと言われたのです。


それぞれのお見舞いに行きましたが、2人共おかしなことを言うのです。


1人はバイクの運転中に、突然巨大な動物の影らしきモノが現れたので、驚いて急ハンドルを切り、車に衝突したそうです。


もう1人は何か巨大な物体に背中を押された感覚があり、その衝撃でホームに落ちたと駅員に訴えて防犯カメラを確認してもらいましたが、周りには誰もいなかったらしいのです。


2人の話を聞き、もしかしたら【カバの木】の祟りじゃないかと思うようになったのです。

 

あの夜、騒いだ拍子に【カバの木】の枝を何本か折ってしまったので、怖くなり全てを正直に話して謝罪したいと言ってきました。

 

 

管理人は2人が反省していると分かり、2度と同じ過ちを繰り返さないようにと約束する代わりに警察には言わない事にしたのです。


それから2人は、自主的に公園の清掃活動をしたり、ボランティアと共に花を植えるだけでなく、年を取った管理人の仕事を手伝うと名乗り出ました。


バイト代を払うと言った管理人の案を断り、無償で働き続けました。

 

やがて2人は、プライベートでも管理人と仲良くなり食卓を囲む程になりました。


管理人は神社で住職をしている元同級生にこの出来事を話しました。


すると、人は誰でも過ちを犯す事がある。彼らのしたことは決して許される事ではないが、悔い改め善行を行うのは誰でも出来る事では無いと教えてくれました。


それから半年後、元通りの生活は出来ないと言われていた2人は賢明なリハビリの末、回復し社会復帰を果たしました。


入院中には不自由な身体で必死に書いた謝罪の手紙を管理人に送っていたのです。

 

その手紙の最後には退院したら必ず謝罪に行く事、警察に自首しに行く事が綴られていました。


そして退院後に謝罪をしに来た2人の反省を見て、手伝いをしてくれている彼らと同様に許す事にしました。


これで解決したと思われた話ですが、まだ終わりではありません。

 

お忘れかもしれませんが、公園を荒らした犯人は5人だったのです。


その最後の1人は彼らの1つ上の同じ大学に通う先輩で、父親は大手代理店の社長を務めています。

 

毎日の様に昼間から飲み歩き、授業にはまともに出席せず、後輩をパシリにする等、悪評に堪えなかったようです。


大学側からも両親に注意しに行きましたが、全く聞く耳を持ちませんでした。


4人が管理人に謝罪をするべきだと、訴え続けても無視をし、全く反省する気配がありませんでした。


そんな中、その彼が他校との合コンの帰りに目撃されたのを最後に、行方不明になったのです。


警察とボランティアを合わせて6000人規模で捜索しましたが、有力な情報が全く無く、父親は怒りに震え金を突き出し人数をもっと増やせと警察に文句を言いに行きました。


一方で、同じ大学の関係者達にはあまり心配をする者はいません。


大学では有名な悪評ぶりでいなくなってくれて正直ほっとしている者もいました。


それから2年後、4人は大学を無事に卒業しました。


結局あの先輩は見つからず、捜査は打ち切りになりました。


母親は精神を病み、父親の会社は事業に失敗し、倒産するのも時間の問題という状況になっているようです。


それから半年が過ぎ、4人はそれぞれ希望した職に就き、大変ではあるが充実した日々を送っていました。


久しぶりに集まろうという事になり、初任給を出し合い日本料理屋に行きました。


昔話に花を咲かせていると、テレビで流れていたニュースが耳に入りました。


ニュースによると、【カバの木】がある公園で白骨化した遺体が発見されたと言うものでした。

 

詳しく内容を聞くと、遺体の発見現場は【カバの木】から100m程離れた雑木林の中で発見されたそうです。

 

遺体には大きな物体と衝突した外傷がありました。

 

後に、その遺体は行方不明だった先輩だと判明したのです。

 

遺体発見現場は何度も捜索した場所だったにも係わらず、何故か今まで発見されませんでした。


後日4人は、卒業後も交流を続けていた公園の管理人と会うことにしました。


あの事件以降、防犯カメラを設置していたので確認するとあの先輩が1人で歩いているところが映っていたので警察に提出したそうです。


しかし、警察がいくら調べても他に怪しい人物は映っていませんでした。

 

事件は迷宮入りとなり、先輩の両親はこの公園を薄気味悪いと思い、遠くの地方へ引っ越しました。


こうして公園には平和な日常が戻って来ました。

 

現在では引退した管理人の仕事を息子が引き継いでます。


そんなある日、花壇の手入れをしていた時に、ふと【カバの木】を見ると、人の形をした白いシミが浮かび上がっていて、その近くには血の様な模様が付いているのを発見したそうです。

 

住職に相談するとお祓いをすると共に【カバの木】には人が近づけない様に封印する事になりました。


【カバの木】と一連の出来事が関係しているのか真相は分かりません。

 

ですが、環境を守る為に1人1人が出来る事は何か、過ちを犯してしまった時に自分を戒め罪を償う事の大切さを教えてくれる話です。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter