怪文庫

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破滅の分譲地

これは、私が実際に経験した話です。


夫の転勤に伴い見知らぬ土地に引っ越しました。

 

ちょうど出産と重なってしまい、夫が先に選んで私はネットや送ってもらった写真でしか物件を確認していませんでした。


「小さいけど庭もあるし、いい家だね」


そこはコの字に新しく建てられた20軒ほどの分譲住宅地でした。

 

築10年でまだキレイな物件です。

 

外で遊んでいた子供たちも、隣家の御夫婦も感じが良さそうでした。

 

変わったところといえば、一級建築士事務所やビューティーサロン、税理士などの自宅兼職場のお宅が数件あったくらいです。


引っ越して数年、小さい子が十数人と多かった時期も落ち着き、ちょっとした派閥なんかもあると分かりながらも、周囲との関係に慣れた頃でした。


「ねぇ、二段ベッドお宅で使わない?」


と、お世話好きで有名な近所のおばさんがやってきました。

 

どうやら道路を挟んだ、2軒分に注文住宅を建てていたお宅が、引っ越しをするみたいです。我が家は、一人っ子の予定でしたので丁寧にお断りしました。


その後そのお宅が取り壊され、次は2軒分の建売ができました。

 

それから数ヶ月後、夜中に救急車の音がしたかと思ったら赤色灯が見えました。近所に停まったようで、外に何人か出てきたようです。

 

翌日、急性アルコール中毒を起こして運ばれたけど大事には至らなかったと聞きました。


実は、赤色灯を感じたのは昨日だけではありません。

 

一本隣の道路は月に1回以上救急車が通ります。

 

消防署が近いのではなく、老人ホームへと向かっているのです。自宅からは直接見えませんが、コの字の道路を少し歩くと外観が見えました。


子どもが幼稚園に通うようになって、私もパートを始めました。

 

帰宅すると、大通りの近くのお宅に引っ越しのトラックが止まっていました。

 

分譲地だから購入してずっと住むものと思っていましたが、意外と引っ越す方も多いようです。


「ねぇねえ、聞いた? あそこ、離婚したんだって。それで、奥さんが子どもを連れて出ていくそうよ」


例の世話好きな近所のおばさんが教えてくれました。

 

話し出すと長いおばさんです。買い物袋をもったまま、これも近所付き合いと諦めました。


「そうなんですかー」


「そうよー。あなた今、この家何年目?」


「ええと、5年になります」


「あら!最長記録ね。この家、最初の購入した方が奥さん鬱になっちゃって、息子夫婦の近くに引っ越したのよ。その後賃貸になったんだけど3組くらい住み替えたかしら。みんな、3年ももたなかったの」


「はぁ。そうなんですか」


としか、私には言えませんでした。賃貸なので、それぞれ事情はあると思いますが、それにしても多いなと感じました。


「まぁ、それだけじゃないわよ。ここの区画は呪われてるの。向こうの通りでは、事故に合って片足麻痺になった人もいるし、サロンのお宅は前の方が借金で家を売ったし、こっちの隣もね、子育て放棄でおばあちゃんが孫の世話をしてるし、そっちは結婚して出ていった娘さんを若くして白血病で亡くしてるの。可哀想よねぇ」


私は開いた口がふさがらない状態でした。

 

 

笑顔も引きつってたと思います。

 

なぜなら引っ越してきて数カ月後、夫が無職になったからです。

 

会社都合とわいえ運がなさすぎます。


「なんでかってね、そこ、老人ホームあるでしょ。あと、そっちに汚い水が流れ込んでくる浄水場があるわよね。で、向こうには工場。そんな施設に囲まれているんだもの影響出るわよねぇ」


カラカラとおばさんは笑い飛ばしていました。


後日、そのことを2軒隣で良くしてくださる娘の同級生のお母さんに聞いてみました。


「そうそう。どこの家も何かしらトラブルあるみたいよ。私も、去年足を骨折しちゃってね。1ヶ月くらい入院したわよ。まぁ、銭湯で働いてるからこの程度で済んだのかもね〜。でも、どこにでもある話しでしょ」


「なんか怖いですね」


「まぁ、死んだ人はいないから、大丈夫じゃない?」


二人で苦笑しながらも、うっすら寒いものを感じた私は、早く引っ越すことを決意したのです。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter