怪文庫

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ゴミヒロ

私の地元にはゴミヒロさんという人がある。もちろん本名ではない。本名は知らない。

 

ゴミヒロさんは地元の海水浴場に冬場に出没し真冬なのに夏服でゴミ拾いをしている人。

 

夏場の海水浴場は人が沢山いるためか目撃談はほとんどなく冬場のみ現れる。

 

ゴミヒロさんは普段何もしなければただごみを拾っているという無害の人ではあるが目の前でポイ捨てをしたりなにかちょっかいをかけると鬼の形相で追いかけてきてボコボコにするという噂があった。

 

大人たちはそんなゴミヒロさん(大人はゴミヒロさんとは言わず名字。なにかは忘れた)を子供に危害を加える可能性もあるがゴミ拾いをしているだけでそれにちょっかいをかける方も悪いという考えで極力無視するようにと教えているらしい。

 

当時の私は中学1年でゴミヒロさんを見たことがなかった。

 

というのも私はその海岸がある地域とは別の地域に住んでいたため中学になるまで存在自体知らなかった。

 

中学生になり初めての冬休み。

 

 

その話を友だちから聞き興味をもった私は仲の良い友達4人で冬の海水浴場に行くことに。

 

この4人は私と同じ地域でゴミヒロさんの話も中学から知った連中だ。

 

ゴミヒロさんのことをすでに知っている友達は親から『ゴミヒロさんには近寄らないように』と言われており誰も私達とは同行しなかった。

 

私達は自転車で海水浴場に向かう。

 

冬の海水浴場だ。人はおらず、海の家ももちろんやってない。ただ波の音だけが響き渡る静かな海水浴場。

 

私達はゴミヒロさんを探した。

 

すると、浜辺の端に人影が見える。

 

噂通り冬の海でゴミ拾いをしてる、夏服を着た・・・女だ。

 

『ゴミヒロ』という名前から私達は完全に男と勘違いしていた。『ゴミを拾っている人』という意味だけで付けたあだ名ということに気づいた。

 

4人で少しずつゴミヒロさんに近づいてみる。

 

真冬なのに半袖短パン。しかも裸足。服は汚れておりところどころ破れている。背中にお大きめのかご?背負子というのだろか、アレを背負って素手でゴミを拾ってそのかごに入れてる。

 

年齢はわからない。50代くらいのボサボサ髪の女というこという見た目。

 

近くまで行って4人で凝視してみたがこちらを気にしている様子はなくただ黙々とゴミを拾っている。

 

ここまでは噂通りだ。

 

本当はだめなのだが若気の至り、中学生になりかなり調子に乗っていた私達はもう一つの噂。『ちょっかいをかけたら追いかけてくる』ということも試してみたくなった。

 

ちょっかいといっても暴行、暴言のようなことは流石に調子に乗っている私達でも気が引けるため『目の前でゴミを捨てる』という一番難易度の低いものをやってみることに。

 

友達があらかじめ用意していたゴミの入ったビニール袋をゴミヒロさんの進行方向にポイっと投げてみた。

 

ゴミヒロさんの動きが止まった。

 

しばらくの静寂の中、ゴミヒロさんが急に

 

「おおおおおおおおお!!!!!」

 

と奇声を上げた。

 

私達はビクッとしてゴミヒロさんを見る。

 

ゴミヒロさんはこちらに走ってきた。

 

噂は本当だった。ではこのあと捕まったらボコボコにされるということ。

 

私達は全速力で逃げた。

 

その間も奇声を上げて追いかけてくるゴミヒロさん。

 

しかしこちらは中学生で体力は有り余っている。追いつかれることなく自転車のところまで戻り急いでその場を離れた。

 

しばらく奇声は聞こえていたがそのうち声は聞こえなくなりホッとした。

 

自転車で20分ほど走ったところで止まり4人で顔を見合わせる。

 

皆、緊張から解き放たれたのか爆笑した。

 

噂は本当だったということ、1人が半泣きだったこと、ゴミヒロさんはマジでヤバイこと、など笑いながら話していた。

 

しかしよく考えてみればあちらは50代くらいの女1人でこちらは中学生男4人。中1とはいえある程度体は大きいためそこまでビビることなかったかな、と思っていた。

 

すると4人の内1人は笑っておらず少し震えている。

 

どうしたのか聞くと

 

「お前ら、かごの中身みたか?」

 

私は見てない。他の2人も見ていないとのこと。

 

「見えたんだよ。人の顔・・・。」

 

は?こいつは何を言ってるんだ?と思った。そのまま続ける

 

「最初は人形と思ったけど違うんだ。あの声、かごの中からしてた。かごの中の顔が叫んでたんだよ!!しかも追いかけてるときあの女手に包丁持ってたぞ!」

 

背筋にスーッと冷たいものが走った。

 

言われてみればあんなに大声で奇声を上げていたのに女の口や顔が動いていた覚えがない。

 

その後そのまま解散し親たちにゴミヒロさんには関わるなと言われていることもありその話は親たちにはしなかった。

 

冬休みが終わり学校が始まりその話をクラスの海水浴場がある地域の友達にした。

 

するとどうも話が噛み合わない。

 

その友達いわくゴミヒロさんは50代くらいの半袖短パンの、剥げたおっさんで普通のゴミ袋を持って火ばさみでゴミ拾いをしており確かに子供を追いかけたことはあるが実際にはゴミを投げられてそれに激昂したという話に尾ひれがついたとのこと。

 

じゃあ私達がみたあの女は誰?それに友達がみたかごの顔の正体は?

 

それ以降何度か冬の海水浴場に行ってみたがその女に会うことは一度もなかった。

 

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