もう一人の彼

数年前、彼と一緒に住んでいました。

部屋は二人暮らしにしてはゆったりとしていて、2LDKで、私は一番小さな部屋にこたつを置いて、よくそこで仕事をしていました。

彼は警察官で、不規則な勤務形態でした。お昼に帰ってくることもあれば、勤務がのびて夕方に帰ってくることもあります。

大変な仕事で、「辞めたい」とよく言っていました。

ある時、お昼ごろ私はこたつで仕事をしながら、うとうとと寝てしまっていました。すると、ガチャっとドアのあく音が。

眠すぎて体を起こさないまま目を開けると彼が私の寝ているところまではいってきて立っています。

「今日は早かったんだね~ごめんちょっと眠くて」というと彼は何も返事をしません。

私の目の前には今朝はいて行った靴下とスーツの足がスクッと立っているのが見えます。

「返事くらいしてよ」と言ってしばらく目を瞑り、「さあ起きるか!」と起きて洗濯物をすべく洗濯機まで行くと洗濯機の足元に彼がさっき履いていた靴下があります。

「もう!洗って洗濯機に入れてって言ってるでしょ!」と言いながら、洗面器にその靴下を入れて手洗いし、洗濯機に入れて、スイッチを入れてまわします。

 

―――と、彼がいないのです。

 

他の部屋を見てみても、トイレにも、お風呂にもベランダにもどこにもいません。

ドアの開く音もしなかったけど、どこかに行ったのかな?と思い彼に「どこ行ったの?」と連絡しても返事はなし。

一体何なんだろう、と少しむっとしながらまたこたつに向かって仕事を再開します。

 

すると30分くらいしてまた眠くなり、寝てしまっていました。

「ガチャ!」とまたドアの音がして「ただいま~!」という声が。

「ただいまじゃないよ!どこ行ってたの?」というと、「何が?はいこれ」とお土産のケーキを渡されました。

「どういうこと?さっき一回帰ってきてこれ買いに行ったの?」と聞くと「何言ってるの?今仕事帰りだよ。それ食べたがってたやつ。」と言われました。

確かに、スーツも着たまま、靴下も履いていて、仕事のバッグもすべて持っています。

 

そんな嘘をつく意味もありません。

「え、だって、、、」背筋がぞっとして、彼にそれまでにあったこと一部始終を話しました。

 

すると「足だけの生霊の話、聞いたことある。それかも」と彼。

2人でぞっとしました。やめたいやめたいと言っていた彼の魂が、早く家に帰りたくてかえって来てしまったのかもしれません。

ただ、まわっている洗濯機のスイッチを押して中を取り出すと、そこに私が入れた彼の靴下がありました。

 

帰ってきた彼も靴下はちゃんとはいていました。

 

この靴下は一つしか持っていないはず。

 

驚いて、帰ってきた彼の靴下を探すと、さっきまで履いていたのになぜかどこかに消えてしまっていたのです。

彼も私もまったく意味が分からなくてずっと気持ち悪いねと言っていました。いまだにあれが何だったのか、わかっていません。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter