雨の日

これは私が小学生の時の体験です。

当時、私には仲の良い友人が3人いました。

みんな幼稚園から一緒で同じ小学校に入学。

いつも一緒で、休み時間だけでなく、放課後も家に帰って荷物を置いたらすぐ集合して遊んでいました。

 

その日は梅雨半ばの小雨の降る蒸し暑い日でした。

あいにくの天気でしたが、みんなで公園で遊ぶ約束をしていました。

というのもこの時の私たちは、公園の池に湧くアマガエルを誰が一番沢山捕まえられるか、という遊びに夢中だったのです。

私は傘もささずに走って家まで帰り、すぐに出かけようとしました。

出がけに母が傘をさして行きなさいというので、しぶしぶさして出ました。

 

途中で、約束をしていた友人の一人と合流して並んで歩きました。

 

今日学校であったこと等、何気ない話をしていたと思います。

といっても、ほとんど私が話していたのですが。

この友人は大人しい奴で、いつも私が一方的に話してそれをうんうんと聞いているのです。

いつものことなのですが、この日の私は何となく落ち着かない気分でした。早く遊びたいのか、それとも何か別のことが原因なのか、なぜかソワソワするのです。

自分でもよく気分が分からないまま、いつもより少し早足で公園に向かいました。

友人はそんな私の隣でニコニコと話を聞きながらついてきます。

ふと、会話が途切れてしばしの無言の後、友人が訊ねたのです。

「今日はどこでどんな遊びをするの?」

 

「お前何言ってるの?公園でカエル捕まえるって約束してるだろ?今までどこに行くつもりだったんだよ。」

ははは、と笑いながら答えました。

「今日こそは俺が一番沢山とってやるからな」

 

そう言うと、彼は「そうだった!」と明るく笑って答えました。

ですが、その笑顔を見て私はなぜか寒気をおぼえました。

 

やばい、学校から家まで雨に濡れたから風邪をひいたのだろうか。

今日は早く切り上げて帰ろうかと思っていると彼が話しかけてきました。

 

「この近くに、公園よりもっとカエルのいる場所があるからそこで捕って行って
他の奴らを驚かせてやろう」と。

「いやいや、あまり待たせちゃ悪いし公園に行ってからみんなで移動しよう」と私は更に早足で歩きながら言いました。

 

おかしいな。もうとっくに着いているはずなのに。

話しながらだから思ったよりもゆっくり歩いていたのだろうか。

あいつら待っているだろうな。

でも…と渋る友人に、とにかく行こうと言い、傘を畳んで私は走り出そうとしましたが、後ろに引かれて尻もちをつきそうになりました。

振り返ると彼が左手を掴んで引っ張っているのです。

 

「あいつらには教えたくないんだ!少しぐらい大丈夫だって」

とニタっとした笑顔を貼り付けて私を引きずっていこうとします。

振り払おうとしましたがびくともしません。

こいつこんなに力強かったっけ?と思いながら笑ってみせて前に進もうとしました。

「また後日にしよう。今日はとりあえず公園で遊ぼうぜ!」

必死に足を踏ん張りながら彼に訴えましたが、無言でニコニコしながらそのまま今来た道を引き返そうとします。

 

その様子に私は恐怖をおぼえ、「離せ!」と叫んで右手に持っていた傘を振り上げたその時。

背後で私を呼ぶ声がしました。

振り返ると何とそこは公園の入り口で、友人達がいました。

「お前何やってるんだ?さっさと来いよ」と不思議そうな顔をしています。

 

ふと掴まれていた左手が解放されたのを感じ、ホッとしながらみんなの元に駆け寄ろうとして私は気が付きました。

もう友人は3人揃って私を待っていたのです。

ドッと汗が吹き出し、じゃあ一緒に来た彼は?と後ろを見ると誰もいません。

 

そもそも友人3人の家は公園の北側にあって、南側に家がある自分と途中でばったり会うことはないのです。

何で忘れていたのでしょうか。

しかし、彼を見た瞬間私は確かに友人の一人だと思ったのです。

誰に見間違えたのだろうと、顔を思い出そうとしましたが全く思い出せません。

物静かな奴って…誰のこと言ってたんだ?そんな奴俺らの中にはいないぞ。

背丈は?どんな服を着ていた?確か、傘はさしていたな…何色の?

 

ぐるぐると考えながら立ち尽くす私を不審に思ったのでしょう。友人達が、大丈夫か?と私の顔を覗き込みます。

そうだ、みんな彼を見ていたはずだと「俺と一緒にいた奴どこに行った?」と聞きました。

皆一様にポカンとした顔をして、自分たちが私を見つけた時は一人だったと答えました。

公園の入り口で傘を振り上げて遊んでいる様だったので声をかけたと。

 

その後のことは朧げにしか記憶にありません。

私を心配して友達達が家まで送ってくれたこと。ただ怖くて自分の部屋で震えていたことぐらいです。

 

あれから何年も経っていますが公園に続く道は極力通らないようにして暮らしています。

特にあの日の様に雨の降る日は、彼が傘をさして私を待っているような気がするのです。

あいつは一体何者だったのか。

あの日私をどこに連れていくつもりだったのか。

 

先日どうしてもあの公園近くを通らなければならず、自転車で通りすがった時に
「不審者!注意!!」の張り紙を見かけてふと思ったのです。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter