天井の人形

これは、大学時代に体験した話。

 

俺が住んでたのは、大学から少し離れた古い寮で、築50年以上は経ってるようなボロい建物だった。

 

家賃が安いからそこに決めたんだけど、古い建物特有の雰囲気があって、最初はちょっと気味が悪かった。けど、それもボロさのせいだからと、その時は思っていた。

 

寮に引っ越してきて数日後、最初に気になったのが「長い髪の毛」だった。

 

俺は一人暮らしだし、当然そんなに髪が長くない。

 

なのに、ふと床を見たら、黒くて長い髪の毛が一本落ちていた。

 

特に気にせず掃除したけど、数日後また同じような髪の毛が落ちている。

その時、ちょうど遊びに来ていた友人がその髪の毛を見つけて、「おいおい、彼女でも連れ込んだのか?」って茶化してきた。

 

「いや、そんなことないよ」と笑って流したけど、なんか気味が悪かった。

 

でもまあ、古いし。持ってきた家具に姉貴のものがあったから、それに髪の毛がついてきたのかなとか、呑気に考えていた。

 

ところが、日が経つにつれて、床におちる髪の毛が増えていった。

 

毎日のように、床やベッドの周りに長い髪が何本か落ちている。

 

誰かが忍び込んでいるのかとも思ったけど、部屋の鍵はしっかりかけてるし、窓も閉めてる。

 

変だな…と思いながらも、俺はただただ掃除するしかなかった。

 

それからしばらくして、寝ている時に顔に水が落ちてきた。

 

大雨が降った日、寮のボロさもあってか、雨漏りした。

 

天井に大きなシミができていて、ポタポタと水漏れしている。

 

古い寮だから、雨漏りくらいは仕方ないと思って、雨漏りをキャッチするバケツを置いた後、タオルで周りを拭いていた。

 

ベッド、机、窓…拭いても意味ないかな、なんて思いながら、ふとタオルを取り替えようとした時、タオルに何かが絡まっているのに気付いた。

 

黒い、長い髪の毛だった。

 

またか、と思いつつ拭いてると、バケツの中に髪の毛が落ちている。

ポタポタ…雨漏りがバケツに滴る。

 

天井から落ちる水滴を見つめると、水滴が長い髪の毛とともに落ちてきた。

 

どうして天井から髪の毛が落ちてくるのか全く理解できなかった。

 

気味が悪くなって、恐る恐る天井を見上げると、微かに隙間が見えて、そこから何本かの髪の毛が垂れ下がっていた。

 

その瞬間、全身に寒気が走った。

 

髪の毛が天井から垂れてるなんて、普通じゃない。

 

どうしても気になって、翌日友人に来てもらった。

 

友人は最初、俺の話を冗談だと思って面白がって聞いていたが、実際に天井から髪の毛が垂れ下がっているのを見て、さすがに無言になった。

 

友人がぼそっとつぶやいた。

 

「これ、やばいだろ…」

 

二人で相談して、とりあえず天井を確認しようということになった。

 

俺たちは大家さんから工具を借りて、古い木製の天井を一部分外した。

 

本当は外したらダメかもしれないが、その時は、何が起こっているのか知りたい気持ちが強すぎて、後先考えずに工具を天井の隙間に差し込んだ。

 

埃が舞って、古い木の匂いが鼻をついた。

 

そして、天井を少し開けた瞬間、何かが見えた。茶色い紙袋のようなものが、天井の奥、手の届きそうなところに見えた。

 

「マクドナルドの紙袋か?」と友人がつぶやいた。

 

確かに、よく見ると、テイクアウトで渡されそうな紙袋にも見える。

 

しわしわになった古びた紙袋だった。

 

封は閉じていて、中身はみえない。

 

何でこんなところに紙袋があるのか全く理解できなかったが、なぜかポツンと置いている紙袋が気になった。

一生懸命手を伸ばして、無言でその袋を掴み、自分たちのもとに手繰り寄せた。

 

袋は異常なほど軽く、昨日の雨漏りで濡れている様子もない。でも、その袋の口を開けた瞬間、俺たちは言葉を失った。

 

袋の中には、大量の長い黒い髪の毛がぎっしりと詰まっていた。

 

まるで髪の毛だけでいっぱいになっているかのようだった。

 

そして、その髪の毛の間から、何かが見え隠れしている。

 

おそるおそる髪の毛をかき分けると、中から出てきたのは古びた少女の人形だった。

 

その少女の人形は気味が悪く髪がところどころカットされている。

 

その人形の周りに、長い髪が詰められているのが、なんとも言えない異様さを放っていた。

 

人形は明らかに年季が入っている。何十年もここに置かれていたのか、髪の毛は人形から自然に抜けていたのか、それとも誰かが意図的に髪を詰めたのか、全く分からなかった。

もし、床に落ちていた髪の毛がこの髪の毛だとしたら?

紙袋は封を閉じていた。なぜ天井から髪が落ちてくるのか…

 

「これ、やばくないか?」友人が震えた声で言ったが、俺もどうしていいか分からなかった。

 

とにかくその場から離れたくて、紙袋に人形を戻し、元の位置に紙袋を戻した。

 

俺たちは急いで部屋を後にした。

 

その後、俺はすぐに寮を出ることにした。

 

あの髪の毛が天井から垂れていた理由も、人形がどうしてそこにあったのかも、結局何も分からないままだった。

でも、あの寮に戻ることは二度と無かったし、その後、あの髪の毛のような不気味なものを見ることも無かった。

ただ、あの人形があの後どうなったのかがわからない。それとも今もあの天井の中にあると思うと…

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter