俺、化粧してる人が怖いんだよな。
女はもちろん、最近は男も化粧してることあるだろ。
気持ち悪いとかじゃなくて、怖いんだよ。
なんでって、まあ。知りたければ話すけどさ……。
七年くらい前だったかな。まだ俺が二十代になったばっかの若い頃。
その日は友達と二人で、街にナンパしに行こうって言って出かけてたんだ。
だけどそんなの上手くいくわけ無くって、まあ結果なんてお察しだったんだけど。
そんな時、近くのデパートで出張展覧会みたいなのが開かれててさ。どっかの華族が遺したらしい美術品が見られるってやつ。
そこを見てから、出てくる女の子に声かけたら話題も出来てナンパも上手くいくかもしれないって思ったわけよ。俺たち単純だったから。
で、入場料払って会場に入ったと思ったらめまいがして、倒れそうになったところで誰かに支えられたんだよ。和服の美人な女の人に。
スタッフさんかなって思ったんだけど、すみませんって言って顔上げてから気付いたんだ。
入る前に見た会場じゃないって事に。
和風の、なんか豪華な家。建築とか歴史とか詳しくないしよくわかんないけど、柱とか障子とかに絵がかいてあったりさ、人が沢山歩いてるのに汚れも無い長い木の廊下に俺は立ってたんだ。
太鼓とか笛の音が聞こえてきて、美味しそうないい匂いもして、よくわかんないけど凄く楽しそうな雰囲気の、お屋敷って感じの場所。
そんなのデパートに無いと思って混乱したんだけど、俺の事支えてくれてた女の人は
「ようこそおいでくださいました、さあこちらへ」ってそのまま俺の手を引いて、障子を一つ開けたんだ。
中は、音で想像出来た通り、宴会かなってくらいに賑やかだった。
お酒とか食事とかも豪華で、たくさんのお膳が並んでて、座布団もなんかキラキラしてて高級そうなやつで。
俺は手を引かれるままに座布団の一つに座って、女の人にお酌されて、とりあえずお酒飲んだんだよ。
近くにいた男の人にも料理勧められて、なんか雰囲気にのまれるって言えばいいのかな、それも食べた。
酒飲むと気分もよくなるし、歓迎してくれてる周りの女の人は美人だしで、なんでここにいるのかとかどうでもよくなっちゃってさ。
その時の記憶はだいぶあやふや。でも変に楽しかったし、よくわかんない歌とかも歌ってた気がする。
でも酔っぱらいながらも、そういえばナンパしに来たんだったって思い出した。
だから、最初に俺の手を引いてくれた女の人に声かけたんだ。
呂律まともに回ってない舌で必死に口説いてた。
それに彼女は笑いながら答えてくれて、なんかいい雰囲気になって、二人でその部屋抜け出したんだよ。
彼女が案内してくれた別室は、布団が敷かれたいかにも、って部屋だった。
酔った勢いもあっただろうけど、若い頃ってそういう欲だって強いしがっつくもんだろ?
布団に彼女を押し倒して、その勢いで布団の傍にあった入れ物が倒れたんだ。
中に水が入ってたみたいで、彼女と俺に水がかかっちゃって。
大丈夫かって彼女の顔を拭った時に、俺の酔いが一気に冷めたんだよ。
彼女の化粧が落ちたところ、どう見ても生きてる人間じゃなかった。
目はもうただの穴だったし、肌の色も血の気が無い白で、ところどころ骨が見えてた。それなのに、紫のボロボロの唇でにっこり笑ってたんだ。
俺怖くなっちゃってさ、その場から走って逃げだしたんだ。
廊下に出たら、ちょっと前まで感じてたいい匂いなんてどこにもなくて、何かが腐ったような臭いが充満してた。
楽しそうな声も、ガラガラした、無理やり喉から絞り出してるみたいな声っていうか、そんな声で。
俺そこで、そういえば男も化粧してたって事に気付いたんだよ。
ぞっとしたよな。
もしかして俺って、死人に囲まれて宴会してたんじゃないかって。
どうにかして帰らないとって、いろんな部屋の障子開けて中を見たけど、どの部屋でも、何かわからないドロドロしたものを乗せた皿と腐ったような水を囲んで、ところどころ肉が削げ落ちたような死人がガラガラ笑ってたんだ。
まるで自分が死んでることに気付いてないみたいだった。
もうどうしていいかわからなくなって、情けないけど半分泣きながら屋敷の中を走り回ってた。
必死に走って、息も切れて、もう駄目だって思った時、何かに躓いて床に転んだ。
顔を打ち付けたのは冷たいタイルで、思わず茫然としちまってさ。大丈夫ですかって言いながらデパートの制服着た人がこっちに駆け寄ってきてくれて。
周囲を見ても障子も木の廊下も無くて、帰ってこれたんだ、って安心して、マジで泣きそうになったよ。
それが怖すぎて、ナンパどころじゃなくなったから、俺は家に帰った。
でも帰ってほっと息ついてた時、そういえば友達の事を忘れてたことに気付いたんだ。
仕方ないよな。だってあんな状況でまともに友達の心配なんかしてられるわけないだろ?
でもちゃんと思い出したし、大丈夫かって連絡入れたんだけど反応なし。
電話かけても電波が繋がらないところに居るって音声しか帰ってこない。
友達の家族にも、どこにいるか知らないかって言われたけど、俺は知らないって答えるしかなかった。
だってあんな話しても、信用してもらえないだろうから。
捜索願は出したらしいけど、もしも俺と同じ場所にいて、帰ってこられなかったんだったら、きっと見つからないんだろうなって思ってる。
俺だって、どうして帰ってこられたかわかんねぇし。
それからさ、化粧してる人見るたびに、この人は死人じゃないよなって思うようになった。
けしょうって打つとさ、変換の候補に化生って出るだろ。
妖怪とか化けたものって意味のあれ。
あの体験をして、その言葉の意味を知ってからさ、化粧って、人に化けるためのものなんじゃないかって、どうしてもその感覚が拭えないんだよな。
だから、化粧してる人が怖いんだ。
著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter)