神社の前で拾った石

僕は今、地元を離れ関東の某会社に入社して5年目になる会社員です。

実は昔、ある一時期ですが何をやってもうまくいく、無敵状態のときがありました。

ですが、つい今までそのことを全く覚えていませんでした。

なぜ思い出したかと言うと、最近ちょっとした交通事故に遭って頭を強く打ってしまったのです。

幸い、外傷は軽く脳にも異常はなかったのですが、これがきっかけで以前にはなかった記憶がじわじわと蘇ってきたのです。

これは、そんな自分にとっては奇跡のようだった、ある一時期のその頃の不思議なお話です。

 

僕の住んでた街はそこそこ利便性も良いながらも、緑や山林も多い地方都市です。

それは高校1年の夏の終わり頃でした。

夕方の学校の帰りに神社(かなり古い)の前を通りかかった時に、地面に薄くぼんやりと光ってる様なものを見つけました。

あたりは薄暗くなり始めていたのですが、何かに反射してる様にも見えました。

拾い上げてみると、直径8cmくらい厚さ2cmくらいの、黒っぽくて光沢のある円盤状の石の様なものでした。

よくみると、うっすらとですが平たい面に模様らしきものが感じれれます。

模様は六角形が横に2個くっついた状態で並んであって、その右に位置する方の六角形の右側の角二箇所からそれぞれ線が伸び、小さな円がくっついてる感じです。

なんだか、化学の記号の様なイメージでしょうか。

その面に触れてみると、「気のせいかな」と思う程度のですがピリッとした感触を受けて、少し驚きましたが、なんだか、妙に気になってそのまま持ち帰ったのです。

 

次の日は、ちょうどテストの日だったのですが、驚いたことに答えがスラスラと頭の中に浮かんでくるのです。

僕は、勉強はどちらかといえば苦手で、中の中から下くらいを行ったり来たりの成績でした。

たまたま最初の科目だけかなと思ったのですが、全科目ともこの調子だったのです。

例えていえば、1+1が2と考えなくてもこたえられるような感覚です。

しかしながら、いきなり全科目満点の様な状態だと、さすがに変に思われそうなので、その日は、わざと80点くらいになりそうな感じに抑えておきました。

 

日が経つにつれ、そんな自分の変化した特性について、なんとなくわかってきました。

どうやら、見たものや聞いたものを100%記憶しているらしいのです。いや、と言うより多分ですが潜在的には元々脳が無意識に記録してるのだと思うのですが、そのストックを容易に取り出せる様になった、といった方がしっくりくるのかもしれません。

そして、石には1日一回は触れることが効果的であることもわかって使い方も馴染んできました。

(触らない日は、パフォーマンスがちょっと下がる)

 

さらに、1〜2ヶ月を過ぎた頃には人の考えや行動が予測できるようになってきたのです。

友人や先生、家族などのことがかなりの確率でわかるので(100%ではありませんが)人間関係もスムーズでストレスの無い毎日でした。

その恩恵を特に感じたのは、以前から「いいなあ」思っていた女の子と付き合うことができたことです。

まさに、僕はこの時この世の春を謳歌しているといった言葉がピッタリでした。

 

今から考えると、あの時はわからなかったのですが、あの石は何か脳の潜在能力や特性を引き出したり、増幅したりできる装置的なものだったのでは無いかと思います。

最近たまたまテレビで、脳科学やAIについての特集がされているのを見てそう考えました。

例えば、サヴァン症候群という症例では、左脳の障害により抑制されてた右脳の能力が顕在化して、常人離れした記憶力や、絵画や音楽などの能力・才能を表すということがあるそうです。

また、AIは人間では認識できない膨大な量の情報から、共通性や相違点を見つけ出し事象を推測(すいません、あくまで僕の解釈ですが)するようですが、おそらく、記憶力などのパフォーマンスの飛躍的なアップにともなって、AIのような感じで予測も可能になったのかなと考えてます。

 

そんな絶好調の奇跡的な状態も半年ほどが過ぎて、彼女とも順調だし成績もこのままいけば有名大学も狙えるかも…と思っていた頃でした。

ある深夜、強い光を感じて目を覚ましました。窓を見ると外が輝いていました。

ふと、いつもあの石を置いてる机に目をやると何と!石がなくなってたのです!

慌てて起き上がり窓に近づいたのですが、ますます光は強くなりあまりの眩しさに目が開けられなくなって、そのまま気を失ってしまいました。

気がつくと、ベッドの上で朝なってました。

 

しかし、その時からあの不思議な石のことや、この夜の眩い光の出来事は全く記憶から消えていました。

何か色々と好調だったのは、感じとして覚えてるのですがその期間のことは靄がかかったようにボヤっした感じなのです。

だけれど、奇妙なことにその時はそのことにすら疑問を持ちませんでした。

結局、好成績も彼女の関係もそのままフェードアウトし普通の(?)僕に戻ってました。

 

結局あの出来事がいったい何だったのか、やはりよく分かりませんが、ふと亡くなった祖父から子供の時に聞いた話を思い出しました。

細かいところは忘れましたが、平凡な男が幸運の石を手に入れて、綺麗なお嫁さんを娶って大金持ちになる、なんとか長者という地元に伝わる昔話です。

そういえば、あの石を拾ったそばの神社はその長者が建てたとの言い伝えがあるとも言ってました。

もしかすると、僕の拾った石がそれで、昔話は本当にあったことだったのかもしれません。

石を授けたのは、神様なのか宇宙人なのか、あるいは未来人…。

 

この頃は、8cmくらいの丸い石を見ると拾って見てしまう残念な癖がついてしまいました。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter