拾い徳

私が通う学校は今、オカルト話が流行っている。

大体はどこかで聞いたような怪談話に尾ひれがついたような話ばかりだ。

私はお昼休みに集まってはオカルト話に花を咲かせるクラスメイトを横目に見ながら受験対策のテキストと睨み合っていた。

 

まあ、気持ちは分からないでもない。

そろそろ受験も近いということで、ピリピリとした空気を教室から感じる事が増えた。

みんな息抜きをしたいのだろう。

その気持ちは私にとっても例外ではなかった。

受験勉強の合間にスマートフォンで「恋愛の話」「感動する話」「怖い話」など、刺激を求めるために検索しては読み漁っていた。

 

その日も変わり映えしない学校の授業を受けて帰宅した。

夕食を食べてからはまた勉強に取り掛かる。

 

勉強を開始してから1時間経った頃、唐突に集中力が切れてしまった。

「珍しい、疲れているのかな」

何か飲み物でも飲んで休憩してからまた勉強しよう。

そう思い、席を立ったと同時にスマートフォンの通知音が辺りに響いた。

画面を見ると、メッセージアプリに知らない相手からの通知が入っている。

 

何だろう。

今流行りの闇バイトから個人情報でも漏れているのだろうか。恐る恐る、通知をタップして内容を確認する。

書いてあるのは少し文字化けした箇所はあるが「拾い徳」という文字にどこかのサイトのURLのみ。

 

「拾い徳?何よこれ」

どう考えても怪しさしか感じない。

両親からは怪しいURLにアクセスせず、ブロックするようにと口酸っぱく言われていた。

でも、その時の私はそんな約束事など思い出す間もなくアクセスしてしまった。

 

アクセスした先に書いてあったのは文字化けと「あなたに徳をお届けします」という一文。

 

「やっぱり何かのいたずらだったの?」

途端に自分がしたことがいけないことのように思えて、怖くなってきた。

その日はもう勉強なんてする気になれなくて、近所のコンビニで好きな飲み物を買うことにした。

その帰り、道端にたたずむ猫が何かをつついて遊んでいる。

それは西洋風の人形だった。栗色の肩まである長さの髪、くりっと大きい黒い色の瞳。
猫がおもちゃにしたせいで少し薄汚れている。

 

手に取ってまじまじと眺めてみる。

汚れを落とせばきっと可愛いだろうと踏んだ私は、その人形を持って帰ることにした。

家についてからぬるま湯を含んだ布で丁寧に人形の顔や手足の汚れを拭き取っていく。

うん、やっぱり美人さんだ。

人形を綺麗に整えてから一息つくと、先程あった出来事がまた蘇る。

どうしよう、また怖くなってきた。

今日はもうさっさと寝てしまおう。

スマートフォンの電源を落としてベッドへ潜り込んだ。

 

朝、陽の光が差し込んできたことに気づいて上体を起こす。

結局怖さが勝ってあまり眠る事ができなかった。

「どうしよう。不正アクセスとかハッカーの仕業だったら…」

早いうちに両親に相談するか否かで悩みながら、郵便受けへ新聞を取りに向かった。

 

我が家の郵便受けはドアの内側から投函物を取る埋め込み式だ。

今日もいつもと同じように内側から新聞を取ろうとする…が、新聞がスムーズに取り出せない。

ガコッ…ガコッ…

どうやら新聞の上に何かが乗っているようだった。

何か届くものなんてあったかな?そう思いつつ新聞の上にある物を出す。

 

「ひっ…」

そこにあったのは「拾い徳」と書かれた大量の赤い封筒。

「拾い徳」という言葉以外に差出人の名前や住所は記載されていない。

 

また誰かのいたずらなのだろうか。だとしても度を越している。

それに、メッセージアプリのやりとりだけで自宅を特定するなんて可能なのだろうか?自室に戻って昨晩拾った人形を眺めると、さっきまでの恐怖は霧のように消えていった。

とりあえず学校へ行く準備をして、いつもの通学路を歩く。

ゴミ捨て場の脇を通ると、カラスの声がひどくうるさい。

今日はゴミの日じゃない筈だけど、誰かが曜日を間違えてゴミを捨てたのだろうか?

そう思いつつカラスが群がる先を覗き込む。

そこにはおびただしい量の赤い液体があった。

 

「ひっ…。」

私が悲鳴をあげたのは赤い液体だけが理由ではない。

ゴミ捨て場の奥行きの壁に、血のように赤い文字で「拾い徳」と書かれていたからだ。

私は徐々に事態のおかしさに気づき始めた。

昨日から「拾い徳」という言葉をやけに目にする。

それに、恐怖を感じていたのに次の瞬間にはあの人形に愛着を感じていたこと…。

私が私じゃないように感じる。

 

一連の出来事に気分が悪くなった私は、学校に到着してすぐに保健室へ向かい少しの間だけ休ませてもらうことにした。

 

保健室の先生は、気分が優れないようならと早退を勧めてきた。

しかし、受験が近いのにそんな出来事に負けてはいられない。教室に戻って授業を受けると伝え、私は保健室を後にする。

 

教室に入ると、いつもオカルト話に花を咲かせる面子が集まっていた。

教室へ入った私に気づいて視線を送るが、それは一瞬のことで視線を元に戻していた。

自身の席に着いて、次の授業の用意をしようと机の中に手を入れる。

 

ピチャ―っと手に伝わる嫌な感触と、不快な音がした。

恐る恐る手を見ると、赤い液体に彩られている。驚いた私は椅子から崩れ落ちた拍子に机を倒してしまった。

バサバサと音を立てて、机から何かが出てきた。

それは赤色に彩られた「拾い徳」と書かれた封筒の山だった。

 

私は耐えられなくなって、荷物も気に留めず無我夢中で家路へと走った。

 

足を何度ももつれさせながらようやく自室へとたどり着いた。

 

ふらふらとした足取りでブライス人形へと近づく。

可愛い…。

肩くらいまであるウェーブがかかった栗色の髪、黒い瞳…。愛おしくなってその人形を抱きしめる。

そのまま眠りにつくとこんな夢を見た…。

 

私の目の前には「私」が映っていた。

 

目の前にいる「私」は勝ち誇ったような笑みで私を見下ろす。

「今日からは私があなたの代わり」

そう言葉を発してから「私」をゴミ捨て場へ置き去りにした。

こんな状態になってからようやく私は「拾い徳」の意味に気づいた。

 

時すでに遅し。後悔は先に立たない。

落としたものは拾い徳。

 

著者/著作:怪文庫【公式】(Twitter