霧の向こう

夏になりかけのある日のことです。

 

お昼に大型スーパーで買い物を終えて、私は自分の車に乗り込みました。

 

スーパーを出たときから気になっていたのですが、霧がでています。外に出たとたん私は首を傾げた記憶がありました。

 

霧だなんてそうそうある地域じゃないからです。ましてやお昼にです。

 

今日は一日中晴れの予報でした。霧の予報なんて全くでていませんでした。まぁ、でも天気予報なんてあてにならないしな、と思いながら、私はエンジンをかけました。

 

じめっとした感覚が車の中にまで侵入しています。私はあきらめて車のエアコンをつけました。

 

ただ幸い霧といってもそんなに濃くありません。車を運転して自宅に帰るには全く問題ありませんでした。私はお気に入りのアーティストの曲をかけながら、自宅へと車を走らせました。

 

田舎なので自宅に帰るのには車をに20分ほど飛ばさなきゃいけません。これはいつものことなので気にしませんでした。

 

車を走らせていると、だんだんと霧が濃くなっていたような気がします。あれ? おかしいなー? そんなことを考えながら、だんだんと濃くなる霧の中を走りました。

 

家に帰るには短いトンネルを抜けなきゃいけません。濃くなった霧を見ながら、私は気を付けて車を走らせました。

 

そしてトンネルを出たときです。

 

私はびっくりしてしまいました。霧がとても濃くなっているのです。さっきまでは普通に周囲を見渡せる状態だったのですが、今は濃霧といったほうが正しい霧です。

 

こんな霧を見たのは初めてでした。

 

先ほども言いましたが霧なんてめったに出ない地方です。私は慌ててライトをつけ、慎重に車を運転します。

 

なんだかいや~な感じがします。私のこういうときの勘は当たるのです。

 

その時、車に置いておいた交通安全のお守りが風がないのに揺れました。私は直感でやばいと思い、急いで路肩に車を止めました。

 

幸いあたりに運転中の車も人もいません。そのことに安堵しました。

 

安堵したのもつかの間、私は違和感を抱きました。

 

そう、普段ならば普通に交通量がある道路です。深夜でも早朝でもない昼間のこの時間帯に車が一台も走ってないなんてありえません。

 

私はようやっとそのことに気づきゾッとしました。とりあえず外にでるのは危険な気がして、そしてこの異常事態を誰かに伝えたくて私は助手席にあるスマホを手にとりました。

 

画面を見ると「圏外」と表示されてます。

 

確かに田舎ですが、圏外と表示されるような場所ではありません。もう恐怖心はマックス。

 

私はガクガクと震えながら運転席に座ってました。

 

五分ほど待ちましたが、スマホがつながることはなく、人っ子ひとり通りません。やばい、まずい、どうしよう、私の頭の中で警鐘が鳴り響きます。

 

その時です。

 

霧の向こう側から「お~い」と男の人の声がしました。

 

よかった。人がいた。ホッとして私は泣きそうになりました。私はすぐにその声にこたえようと車のドアを開けようとしました。

 

その時、スマホがけたたましく鳴り響きます。

 

「えっ?」と思いました。

 

ついさっきまで圏外だったのに。しかも表示された番号は非通知です。

 

出るかどうか迷いましたが、私は出ました。

 

スマホを耳に当てると「その声にこたえちゃダメ!」と怒鳴られました。いや、怒鳴るというか懇願みたいな声でした。

 

そしてその声は二年前に亡くなったおばあちゃんにそっくりです。ますます私は恐怖に包まれます。

 

晴れない霧。霧の向こうからする謎の男の人の声。そしてスマホからした祖母の声。私の頭の中に瞬時にいろんな怖い話が浮かびます。

 

こないだネットで読んだ怪談にちょうど霧を題材にしたものがありました。

 

確かあれは車の窓という窓に手形が…というありがちな話でした…。私はぎゅっとつぶっていた目を開きます…が、ただどこにも手形なんてありませんでした。

 

依然として「お~い」という声は聞こえます。

 

スマホからした祖母の声も謎でした。亡くなった人がどうやって電話をかけてくるのでしょう。そもそも本当に祖母なのか。

 

ですが、祖母は孫の中で一番私を可愛がってくれました。そんな”祖母のような声”が私を怖がらせるわけがないと思い、スマホの声を信じることにしました。そもそも交通安全のお守りも祖母とよく行った神社で買ったものです。

 

私はガクガク震えながらじっとしてました。

 

その時です。ちょうど少し離れたところから叫び声がしました。

 

それは人のものとは思えぬ叫び声でした。

 

私はますます怖くなり、耳をふさぎました。

 

ふと、前を見ると霧がはれていきます。そのことに私は心の底から安堵しました。

 

あっという間に周囲はいつもの風景に戻っていきました。

 

スマホももう圏外ではありません。そのことに安堵し、私は周囲を見回しながら、いつも通り街の喧騒が戻ってきたことを確認します。

 

そう、さっきまで恐怖心でわかりませんでしたが、謎の呼び声以外音がしてなかったのです。

 

とにかく私は一刻も早く自宅に戻りたく、車を再発進させます。

 

そうするとすぐに車が停まってるのを発見しました。もしかして同じ霧にとらわれた人なのかもしれません。

 

その車は運転席のドアが開いてました。

 

そして、車の中に人影がありません。私は再度、路肩に車を止め、恐怖で震える足をなんとか抑えながら、その車に近づきます。

 

開いていた運転席を覗きました。

 

するとそこには大量の血痕があったのです。

 

おそらくこの量の血液が流れてるならばその人は確実に亡くなっている量でした。

 

私は思わず悲鳴を上げそうになって、慌てて口をふさぎました。そしてすぐに警察に連絡しました。

 

後日、その車の運転手が行方不明ということと、残された血痕は運転手のものだということがわかりました。

 

詳細は私にもわかりませんが、その後大がかりな捜索隊も出たそうですが数日たっても運転手は発見されませんでした。

 

あの時聞いた声が何か関係しているのでしょうか、あの時、私があの呼び声に反応していて、運転席のドアを開けていたらどうなっていたのでしょうか。

 

今でもたまに思い出してゾッとします。そのたびに祖母の仏壇に手を合わせ、大好物のスイカを供えしています。

 

著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)