招待状

僕がこの話を聞いたのは、大学のサークルの飲み会の席だった。

 

趣味であるテニスのサークルで、週に2、3度はテニス終わりに集まってはたわいもない話をつまみに盛り上がっていた。

 

この話を聞かせてくれたのは1学年上のK先輩で、普段はあまりオカルトを信じるタイプではないが、この件だけは今でも腑に落ちないと語ってくれた。

 

「なあ、お前ら『閉店後のゲームセンター』って行ったことあるか?」

 

僕らが首を横に振ると、K先輩はビールを一口飲んで、ゆっくりと語り始めた。

 

K先輩が大学2年の頃、バイト帰りに駅前で妙なチラシを拾ったらしい。

『NEW GAME ARCADE 特別ご招待 午前2時開店』

手書きのフォントに、レトロなピクセルアート風の背景。店舗の住所は記載されておらず、「興味のある方はこのチラシを持って〇〇駅前広場に集合してください」とだけ書かれていた。

 

「変なチラシだな」と思いながらも、先輩はそのままポケットに突っ込んだ。

帰宅してからそのチラシのことがふと頭をよぎり、スマホで「NEW GAME ARCADE」を検索したとこほ、そんなゲームセンターはどこにも存在しなかった。

 

ネットにも情報はないし、SNSでも誰も話題にしていない。

興味を持った先輩は、翌日の深夜1時半、チラシに書かれた集合場所である、〇〇駅前の広場に向かった。

 

広場には先輩のほかに4人ほどの人影があった。

 

みんな手には同じチラシを持っている。

 

すると、黒いフードとをかぶった黒マスク男が静かに現れ、手招きをした。

 

怪しげな男の雰囲気に気圧され、誰も何も言わないまま、彼のあとをついていく。

連れて行かれたのは、駅から少し離れた雑居ビルの地下だった。

そこには確かにゲームセンターがあった。ネオンの光がチカチカと点滅し、古いゲーム機が並んでいる。だが、外には看板もなく、普段は営業していないように見えた。

 

黒いフードの男は無言で中へ案内し、「ご自由にお楽しみください」とだけ言って姿を消した。

店内には誰もいない。懐かしいアーケードゲームが並び、どの台も無料でプレイできた。興奮した先輩たちは、思い思いのゲームを楽しんだ。

ところが、ふと気づくと様子がおかしい。

全てのゲームのランキングの1位が「unknown」になっている。

 

対戦格闘ゲームでは、CPUが異様に強く、まるで人間がプレイしているような動きをする。そして、プレイしているとたびたび画面に奇妙なメッセージが表示されることに気づいた。

【あなたのスコアが記録されました】

午前3時を過ぎた頃、ひとりの男が「トイレに行く」と言って店の奥へと消えた。

しかし、しばらく待っても戻ってこない。先輩たちは不安になり、店内を探し始めた。

トイレの扉を叩いても返事がない。不審に思い、思い切って扉を開けると、そこには誰もいなかった。

トイレには窓もなく、逃げ道もない。

「おい、トイレにいった奴いないけどヤバくないか?」

そう言った瞬間、ゲーム機の画面が一斉にフリーズし、全ての画面に同じメッセージが映し出された。

 

【ログアウトしました】

「……え?」

 

全員が凍りついた。

 

トイレに行った男は、まるでゲームのキャラクターのように「ログアウト」したとでもいうのか?どこへ行ってしまったというのだろうか。

恐怖を感じた先輩たちは、慌てて店を飛び出した。

 

しかし、外に出ると、そこは見覚えのない路地だった。

来るときに通った雑居ビルの地下ではない。照明のない薄暗い通りで、左右を見渡しても知っている建物がない。

「おい、ここどこだよ……?」

パニックになりながらも、4人は手探りで歩き続けた。スマホは圏外、GPSも機能しない。

それでも30分ほど彷徨い続けると、気づけば見知った道に戻っていた。

「……なあ、さっきの店、どこだった?」

なぜか誰も答えられなかった。

 

5人目の男のことが気になったが、彼の名前も顔もはっきりと思い出せない。そもそも、そんな男が最初からいたのかどうかすら曖昧だった。

「……なあ、もう一人いたよな?顔覚えてるやついるか?」

この質問も空を切った。

 

そのまま4人は途方に暮れたような顔で黙り込み、無言の時間が流れた。

「とりあえず連絡先交換しね?そんで今日は解散しようぜ」

1人がそう切り出したことで、他の男たちもホッとした顔を見せ、それぞれがスマホを取り出し連絡先を交換してお開きになった。

 

帰宅後に泥のように眠り、目が覚めると昼過ぎだった。

 

夜のことがハッと思い出され、ネットで改めて「NEW GAME ARCADE」を検索したが、やはり何の情報もない。

そして、連絡先を交換したはずの、他の3人とも連絡が取れなくなっていた。LINEを交換してグループを作成したが、グループごと消失している。

 

K先輩は今でも、そのゲームセンターが何だったのか分からないと言う。

 

ただ、一つだけ気になることがあると教えてくれた。

 

それは、翌日スマホの写真フォルダを開いたときのことだった。

どこで撮ったのか分からない写真が1枚だけ入っていた。

そこには、アーケードゲームの画面が映っていた。

ランキング画面の1位には、K先輩の名前が刻まれていたと言う。

 

著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)