幸せに憑りつく女

これは、私が安産祈願に参拝へ行った時のお話です。

 

年齢を重ねた私達にとって、それは待望の妊娠でした。

私よりも喜んでくれた彼の提案で安産祈願にお参りへ行くことに。

もともと信仰深い彼は、事前に色々と調べてくれたようで彼が見つけた神社へ行くことに決めました。

 

私の印象としては早い時間に参拝へは行くものだと思っていたのですが、彼いわく安産祈願をする場所は水子供養も行っている場所も多いため、あまり人の多い時間は避けたいとのことで日が沈んだ頃に行くことになりました。

 

林道を走り抜けてたどり着いたその神社は、時間も時間のためか、不気味に映ってしまい私は少し萎縮する気持ちでした。

 

しかし、彼と二人で参拝をし無事に生まれてきてくれるように祈願。

 

帰り道、どこからともなくカラカラ…と風ぐるまの回る音が。

彼と何を言うまでもなく音の出所まで歩いていくと、水子供養のお地蔵さんが立ち並ぶ中に一人の女性が立ち尽くしていました。

 

子供を亡くしてしまったお母さんか…と胸を痛くしながら、無言で彼に行こうと促そうとしたら足音に反応したのかその女性が振り向いたんです。

 

「あら、こんばんは。お参りですか?」

 

にっこり笑う女性の問いに彼は何を思ったのか…。

水子供養ではなく安産祈願に来たことを話し始めてしまったんです。

 

わざわざ人目を避けて来たのに、と正直びっくりしましたが、確かに三十代後半になり妊娠を喜ぶというよりも心配する声が多く、彼も幸せ自慢をしたかったのかもしれません。

ただ、少し不謹慎に思えた私は早く帰るように促したのですが、女性が親身に話を聞いてくれたこともあり彼はすっかりその女性と話し込んでしまいました。

 

付けようと思っている子供の名前、予定日、どんな子供に育ってほしいか…など。今思えば、初対面の方にそこまで話すこと自体がおかしなことだったのかもしれません。

 

そして、帰り際女性は「元気な赤ちゃん産んでね!」と私達に何かプレゼントまでくれたんです。

 

女性と話し帰路に就いた後、女性がくれた物を見てみるとそれは木彫りの人形のような物でした。

 

正直気味が悪い…と思ってしまったのですが、彼は安産祈願の物かもしれないと喜んでいたため、リビングに飾ることにしたんです。

 

しかし、それを飾ってから少しずつ私達を何かが蝕んでいると気が付いたのはもう少し後でした…。

 

最初は妊娠したため疲れやすくなっているかと思っていたのですが、私は体調が優れず、そんなに肩こりなどはなかった彼がやたらと肩の重みを気にするようになったんです。

 

しかし、そこまで深く気に留めることはなく数週間後、何度目かの定期検診でお腹に居るのが男の子であることが判明。

 

早速彼にも報告したところ、彼も大喜びしてくれました。

仕事帰りにもう一度だけお参りしてくる、なんて彼らしい行動に呆れつつも喜びながら、もともと付けようと思っていた名前にどんな漢字を宛てようか考えていたところ…。

 

何やら急に誰かに見られているような気がしたんです。

最初は気のせいかと思ったんですが、明らかに誰かの視線を感じる。

 

恐る恐る振り向いてみると、あの木彫りの人形と目が合いました。

 

まさか…と思いながら、ふっと私の中にある疑問が過りました。

 

この人形は一体何なのか?

どうして女性はあたかも用意していたようにこの人形を私達に渡したのか?

 

何だかこの人形の存在が急激に不気味に思えて、調べようとスマホのカメラを人形に向けたんです。

 

すると…、ガタンッ!!と音を立てて、まるで写真を撮られるのを拒むように倒れた人形。

 

思わず恐怖で声を上げそうになった私の元へ、ようやく彼が帰って来てくれました。

急いで彼の元に駆け寄り、さっきの出来事を話そうとしたら、それより前に放った彼の一言。

 

「名前はたつやにしよう!」

 

それは、もともと考えていた候補に入ってない男の子の名前でした。

 

どうして?と私が聞く間もなく彼は一方的に話し始めて。

 

なんと、彼はお参りに行ったらまたあの女性に会ったというのです。

そしてこないだと同じようにお腹の子が男の子であることなどを話したらしく、名前の経緯について私は目眩を起こすような気分でした。

 

その名前は、女性が産むはずだった男の子の名前だったんです。

しかし残念ながら流産…もし産まれていたら私達の予定日と同じ月だったと。

 

もしかしたらあの女性は私達の子供を自分の子供に重ねて見ているのではないか…そう思うと同情よりも私にとっては恐怖が勝りました。

それにせっかく二人で考えていた子供の名前を、いくら親身になってくれたとはいえ他人に言われた名前を付けようとした彼にも腹が立ち、思わず声を荒げてしまったんです。

 

「その名前は絶対に付けない!!」

 

そう言った後、こっちを睨み付けるように見た彼の表情と声が今でも忘れられません。

 

「なんでだよ!!」

 

普段滅多に声を荒げない彼が出したその声は、私の知る彼の声ではありませんでした。

まるで、彼と誰かが同時に声を荒げたような…。明らかに私の耳には彼ともう一人誰かの声が聞こえました。

 

言いようのない不安と恐怖に襲われた私は、その人形について調べることに。

しかし、いくら調べてもわかりません。

なので、ネットの掲示板で聞いてみることにしました。

 

すると、一つ気になる回答が…。

 

それはアフリカ発祥となるブードゥー人形のようなものではないかということでした。

ブードゥー人形とは、本来厄除けやお守りとして用いられるようなのですが、時に呪術的なものとして使われることもあるというのです。

 

私は一気に寒気を感じました。もしこれが本当に呪いのものだとしたら、私達は、お腹の子はどうなってしまうのかと。

 

そして、その日の夜私は恐ろしい夢を見ました。

女性が必死になって私のお腹を押し潰そうとしてくる夢で、現実なのか幻なのか分からないくらい痛々しくリアルな夢でした。

 

そこで私は身の危険を感じ、全てを彼に話そうと決心。

あの人形も処分することに決めて、もし彼が信じてくれなかったりおかしなことを言ったら最悪お腹の子と二人で生きていこうとすら決めました。

 

落ち着いて話せるように自宅ではなく、喫茶店を選んだのは無意識に人形を遠ざけたかったのかもしれません。

 

すると、私は彼からも衝撃の事実を聞くことに。

 

あの人形を飾るようになってから、毎晩女性に子供をどうするべきか、いかに自分にとって私達の子供が必要なのか説かれる夢を見ること。

あの部屋にいると、思ってもいないことを言ってしまったり、訳も分からず感情的になってしまうこと。

 

それを聞いて私はやはりあの人形は呪いのものだと確信しました。

 

彼とも気持ちが分かり合えたところで、あの人形はただ処分するだけでなくお焚き上げしてもらおうと決め、女性に会わぬよう、違う神社へと持ち込みました。

 

お坊さんいわく、やはりあの人形には強い念が込められていたそうです。

さらに本来ブードゥー人形は毛糸で作られることが一般的らしいのですが、わざわざ木彫りというあたり、強い念が込められるようにエネルギーを吸収しやすい木の素材を使ったのだろうと聞かされた時は背筋が凍る思いでした。

 

あの人形を手放してから、私達夫婦に不調や不可解な出来事は起こっていません。

お腹の子もすくすく成長中です。

 

もしあの人形を飾ったままだったら…今でも考えると恐ろしいです。

女性は私達の子供をどうにかマインドコントロールして奪おうとしたのか、それとも自分と同じ目に遭えばいいと思ったのか…。

改めて人の怖さというものが感じた出来事でした。

 

優しく人を信じ込みやすい彼はもしかしたら、出会った時から何か女性に見抜かれて取り憑かれていたのかもしれません。

 

皆さんも初対面の人と話す時、何かをもらった時は真意にお気を付けて…。

 

著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)