深夜の川沿い

これは、私が大学生の頃に実際に体験した出来事です。今でも説明はつきませんが、作り話ではありません。

 

当時、私は大学から程近いアパートに一人暮らしをしていました。夜型の生活で、深夜1時前後になると気分転換に近所を散歩するのが習慣でした。決まったコースがあり、アパートを出て、住宅街を抜け、川沿いの細い遊歩道を30分ほど歩いて戻るだけの、特に面白みもない道です。

 

ある日、いつも通り散歩に出たとき、妙な違和感を覚えました。川沿いに入った瞬間、音がほとんど消えたように感じたのです。車の音も、風の音も、虫の声もなく、妙に静かでした。ただ、怖いというよりは「変だな」という程度でした。

 

しばらく歩いていると、前方に街灯が一本あり、その下に人影のようなものが見えました。よくある夜の散歩仲間だと思い、気にせず歩き続けましたが、距離が縮まっても相手の輪郭がはっきりしません。服装も顔も分からず、黒い塊のように見えました。

 

ただ、妙だったのは、どれだけ歩いても距離が縮まらないことです。普通なら数分で追いつく距離なのに、10分以上歩いても同じ位置関係のままでした。歩く速度を速めても、止まっても、距離は変わりませんでした。

 

そこで初めて、少しおかしいと思いました。

 

その瞬間、後ろから自転車のライトが近づいてきました。振り返ると、普通のサラリーマン風の男性が通り過ぎていきました。その人が前方の街灯付近まで行ったとき、あの人影が見えなくなっていることに気づきました。

 

「気のせいか」と思い、そのまま歩いて帰宅しました。その日はそれで終わりです。

 

問題は、その数日後でした。

 

同じ時間帯、同じルートで散歩に出たとき、全く同じ違和感を覚えました。川沿いに入った瞬間、音が消え、同じ街灯の下に同じような人影がありました。位置も距離感も、前回とまったく同じでした。

 

私は意識的に立ち止まり、スマホで時間を確認しました。深夜1時12分でした。そのまま10分ほど動かずにいましたが、人影は動きませんでした。こちらが動くと、同時に動き出すような感覚がありました。

 

怖くなり、来た道を引き返そうとしました。しかし、後ろを振り返った瞬間、そこにあるはずの住宅街が見えませんでした。暗闇が続いているだけで、街灯も家もありませんでした。

 

ほんの数秒前まで見えていた景色が、消えていました。

 

パニックになりかけましたが、なぜか体は冷静でした。心臓は普通に動いていて、恐怖よりも「これは現実なのか?」「もしかして夢なのか?」という楽しむ感覚の方が強かったです。

 

そのまま前に進むと、いつの間にか川沿いを抜け、見慣れた交差点に出ました。スマホを見ると、時間は1時13分でした。ほとんど時間が経っていませんでした。

 

翌日以降、私はその散歩コースを避けるようになりましたが、なぜか数週間後、無意識に同じルートを歩いてしまった日がありました。すると、あの街灯も、人影も、違和感も、すべて消えていました。

 

ただ一つだけおかしかったのは、川沿いの距離感でした。体感では30分ほどのコースだったのに、地図アプリで測ると15分もかからない距離だったのです。

 

後日、同じ場所で夜に散歩をしている人にそれとなく聞いてみましたが、「特に何もない普通の川だよ」と言われました。人影を見たことがある人もいませんでした。

 

今でも、あの夜が一度きりの異常だったのか、同じ時間を何度か繰り返していたのかは分かりません。ただ、あの川沿いだけは、今でも夜に通る気になれません。

 

あれが何だったのか、説明できる人がいたら教えてほしいです。

 

掲載/管理:怪文庫【公式】X(旧Twitter)