奥様のお迎え

私は高校を卒業後、新卒で特別養護老人ホームに就職しました。

 

ベッド数100床の施設なので色々な方がいます。認知症で食後なのに「ごはんまだ?」と言ってくる方や夕方になると「帰る」と言って外に出ようとする方、身体的にマヒや関節が拘縮して思うように動けず車いすで過ごす方など、本当に様々な方がいました。

 

不思議な体験をした話は、ある男性の利用者が入所された時に体験した話です。

 

入所してから奥様は毎日面会に来ました。でも奥様は物静かで職員や施設に物申すことはなく面会に来ると利用者様の部屋でずっと2人で過ごしていました。食事も摂らず朝から夕方までいました。

 

本当に毎日欠かさずに面会に来るので、さすがに「ご心配かもしれませんが職員がしっかりみていますので、お食事を摂りに帰ったりしていただいて大丈夫です」と数回声をかけました。ですが、会釈するのみで、帰られることはありませんでした。

 

男性が入所して1週間ほどして、突然ですが奥様は亡くなってしまいました。

 

なんでかは知らされませんでしたが、毎日来ていたので疲れてしまったのか、もともと身体が弱かったのかわかりません。

 

男性入所者は、認知症ですが奥様が亡くなったことは理解しているようでした。お葬式にも出席していました。その後は男性入居者は普通に施設生活を過ごしていました。

 

男性入居者の奥様が亡くなって数週間後、私は夜勤もしていたので、夜中みんなが寝静まったフロアで業務をしていました。

 

その日はエレベーターがなぜか上下していました。夜勤中、巡回するパトロールと別でスタッフがいましたが、誰もエレベーターは使用禁止なのにです。

 

巡回するスタッフに聞いても「乗ってない」と言っていてました。がもしかしたら巡回スタッフは禁止されているエレベーター使用しているのかもと疑っていました。

 

そんな事を考えていた時です。巡回は2時間おきで、巡回スタッフが来て談笑し、別れたあと、またすぐにエレベーターが動きだしました。

 

今さっき会ったのにまた巡回するはずないのにエレベーターが動くのは「おかしい、怖い」と思いエレベーターをじっと見つめていました。

 

エレベーターは開きました。誰も乗っておらず数秒後扉は閉じました。なんでかわからないし怖かったです。

 

夜勤明けの日、ロッカールームであった別フロアの夜勤者に出来事を話すと、その方も私と同様の出来事が起きたそうでした。でもその方はさらに見たそうです。

 

廊下を赤い服を着た人が歩いているところを。

 

次の日、男性入居者は亡くなりました。入所して2ヶ月も経っていませんでした。

 

私は男性入居者の部屋を片付けてました。入居して短期間のため荷物はほとんどなく、衣類や洗面用具などをダンボールに入れて、あっという間に終わりました。

 

最後の荷物の中に家族写真がありました。男性入居者と奥様との写真でした。奥様は赤いコートを着ていました。

 

「あー」と思わず声が出ました。奥様が迎えにきていっしょにいったんだと私は納得しました。夫婦愛なのかわかりませんが、不思議な体験でした。

 

著者/著作:怪文庫【公式】X(旧Twitter)