私の実家は、田舎で自営業の不動産の賃貸管理をしています。
田舎の賃貸には古い物件も多く、ちょっとした訳ありの方が多くいました。そんな我が家が経験した、怖いというよりは悲しさ、虚しさが勝ってしまった出来事をお話しします。
私が小学校を卒業するかしないかくらいの時に、賃貸に出していた物件から夜逃げをした人がいました。
家賃を数ヶ月分滞納しており、保証人にも連絡がつきません。夜逃げで一番困るのはお金の回収ではなく、残された荷物の処理です。一定期間は保管し、数年経ったら処分するという契約を結んでいるからです。
その時夜逃げした方は金品以外のものは全て置いていったのか、部屋の中は荷物で散乱していました。そしてそのぐちゃぐちゃの部屋の中に、骨壷と位牌が残されていたのです。
当時、どんな荷物も事務所の地下室に一時保管していました。何度電話しても繋がらない電話に、何年後までは荷物を保管していますという留守電を入れて…。もちろん、骨壷と位牌も例外ではありません。
そして、保管期限が過ぎた頃、当時、中学生になっていた私は何度も何度も同じ夢を繰り返し見るようになりました。
夢の中で古いアパートの中を歩いていき、ある一室に入るのです。鍵はかかっておらず、慣れた手つきで勝手に入っていきます。
そしてその部屋から毎回一つずつ荷物を持って帰ってくるのです。ある日は古いヘアドライヤー、ある日は黒い数珠、またある日は古いお皿……。
そして持ち帰るものがほとんど無くなった頃、いつものように夢の中で部屋に入り込むと、空っぽになった部屋に残された鏡台越しに誰かと目が合いました。
夢の中だというのにビクッと体が飛び跳ねました。誰もいないはずなのに、と。
その人は何を咎めるでもなく、後ろを向き、ゆっくり歩き出します。
その時、どこからともなく突然父もやってきて、父と2人でその人の後ろをついていきます。
夢の中ではアパートの一室のはずだったのに、一瞬で風景が変わり、古い民家の階段を登る景色になりました。
目の前の誰かもわからない人は白い着物を着ており、2階の一部屋に入っていき、こちらに向かって正座しました。
用意されていたかのように2つの座布団があり、私と父は横並びで座布団に座ります。
目の前の人は初老のおじさんで、どこか悲しそうな顔をしており、父に向かって「すいませんが、どうか、お願いします」と頭を下げました。
それに対し父がどんな反応を示していたのかは全く覚えていませんが、顔を上げたおじさんが泣いていたことだけは覚えています。
そして泣いているおじさんと目が合った瞬間、バチン!!と音がして目が覚めました。
全身汗だくで、叫び出したいくらいなのに体は全く動かず、人生で初めての金縛りでした。
グッと堪えていると、そのまま髪の毛と背中を布団の中に引き摺り込まれた感覚に陥り、気を失うかのようにもう一度眠りについていました。
そしていつの間にか先ほど見た同じ光景が現れていました。目の前には白い服をきたおじさんが星座で座っています。隣に父はいませんでした。
おじさんが「ごめんね。お願いね」と私にも頭を下げ、私は何も言えないまま、またハッと目が覚めました。その時には金縛りは解けており、大慌てでベッドを降りて事務所にいる父に今の夢の話をしました。
父は最初はまた変な夢でも見たんだろ〜。と茶化していましたが、これまで私が見てきた夢の話と私が持ち帰ったものの話をした瞬間、顔色を変えました。
そして、「もしかしてこれじゃないか?」と、私を地下室に連れていきました。
うちの会社は事務所の上に自宅、地下に倉庫を構えた作りになっており、行き来が簡単にできます。普段あまり入らない倉庫について行き、父がある棚の前でとまりました。
そこに置いてあった物品は、間違いなく私が夢の中から持ち帰ってきた物品たちでした。
その瞬間訳もわからないほど涙が溢れ、夢の中で出会ったおじさんの話を一生懸命父に話しました。
そして父から見せられた1枚の写真、おそらく遺影だと思うのですが、額縁にも入っておらず、少し汚れた状態のものでしたが、その写真の中にいた人はまさに夢の中で父と私に何かをお願いしていたおじさんでした。
「何年か前に夜逃げした人が骨壷と位牌を置いていったんだ。多分この人が夢に出たんじゃないかな。こんな倉庫に押し込めて可哀想なことをしてしまった」
父は申し訳なさそうな顔でそう言い、すぐに無縁仏として供養できるお寺を探し始めました。
そしてその日のうちにお寺を見つけ、翌日には供養しに行きました。
私たちはお祓いが必要か?と住職さんに聞いたそうですが、特に不要とのことで、供養だけして終わりました。
骨壷と位牌が置いてあった棚は、ちょうど私の部屋の真下に位置していました。置いて行かれた悲しさ、倉庫に押し込められた悔しさ、いろんな思いがつのって私の夢に出てきたのかなと思うとやるせない気持ちでいっぱいになりました。
こんなことしかしてあげれなくてごめんなさい、どうか安らかに眠ってください。そう何度も祈りました。
それ以降一度も夢に出てくることはありませんでした。
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