片面の怨念

カセットテープって今の時代じゃあまり馴染みが無いでしょう。

 

私も道端に落ちているプレーヤーを見つけた時、それとわかるまでちょっと時間がかかりましたから。

 

野ざらし同然に落ちていましたから、手に取っても最初は動くとは思ってなかったんですよ。でも確認したら中にテープが入っていて、驚くことに電源もオンにできたので好奇心で再生してみたんです。

 

実際の音声はもう少し途切れ途切れでノイズ交じりでしたけど。

 

「1996年5月1日、ヤマジ町2番交差点、児童1人」

 

「1996年7月19日、ミズタ市ミズタ駅前踏切、老人1人と幼児1人」

 

「1997年1月8日、オオイ町4番道路、女性1人と児童2人…」

 

淡々と何かを読み上げている抑揚のない男の声が延々30分ほど収録されていました。

 

もちろんこの場で話すのですから、日付は多少ズラして地名も架空のものにしてますよ。

 

ただこの日付と場所と一緒に読まれてる、人と人数がどうにも気になりまして。内容を全部聞いた後で色々調べたんです。

 

それでわかったんですが、コレとある地方の轢き逃げ事故の記録だったんですよね。

 

それも全部犯人が逮捕されてない、いわゆる未解決事件というヤツです。

 

当時は『連続轢き逃げ事件』として取り上げられてたみたいで、おかげでだいぶ時間が経ってしまっている今でも内容を知ることができました。

 

何でも、犯行の手口が陰湿で凄惨だったようで。3件目の女性と子供が被害にあった際も、倒れている3人を中心にタイヤ痕が何重にも残っていて。跳ね飛ばして地面に倒れた3人に向けて車を前進・後退させて、何度も何度もすり潰すように轢いたのだろうと警察関係者から推測されてました。

 

記録は3年分計16件。

 

全部同一犯の犯行だというのですからゾッとしました。

 

そしてテープに録音されている音声を一通り聞き終えるなと思った時の事です。

 

片面テープの最後。

 

たった一言…すごく残念そうな声色で、

 

「ああ、お前は違うなァ…」

 

そこで録音は終了していました。

 

声の主は一体誰だったんでしょうね。

 

だってこの言葉、色んな可能性があると思いませんか?

 

文言から、この人が誰かを探しているのは間違いないと思うのですが。

 

読み上げているのは轢き逃げ被害者の親族か関係者で、轢き逃げ犯を探しているようにも聞こえます。

 

聞き方を変えると、読み上げている男が轢き逃げ犯その人で、次のターゲットに目星をつけようとしているようにも聞こえるのです。

 

どちらにも当てはまるように聞こえませんか?

 

まあどちらにせよ、録音のはずの音声が再生した主に語りかけるような言葉を投げかけてくるのは何とも奇妙で気味悪い話ですけども。

 

じつはそのプレーヤーもテープも今はもう手元に残ってません。

 

いやいや、私はちゃんと保管してたんですけど、いつの間にか無くなってしまってたんですよ。

 

まぁあの最後の言葉から察するに、私は目当ての人物ではないと判断されたようですし。声の主からすれば長居は無用でしょうね。

 

ついでに言うと吹き込まれていた地名、私がプレーヤーを拾った場所から随分と遠い所だったんです。

 

だからこの話を聞いたあなた、ひとつも安心できませんよ。

 

もしかしたらあなたの地元にも来るかもしれないんです。あのテープが入ったプレーヤー。

 

目当ての人物を探し当てるまで、長い時間をかけてさまよっているみたいですから。

 

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